強引にアメリカ型を導入した先に、何があるのか?
田中:自己制作的に進化していくことを考えると、企業やブランドは、やはり理念やビジョン、一種の哲学のようなものを常に持っておくべきだと考えられますか?
石井:そうですね。先ほども話にあったように(前編を参照)、哲学者の西田幾多郎が「見えないものを見、聞こえないものを聞く日本人」 という言葉を残しています。多くの日本企業ないし日本人は、お金を稼ぐ機構である会社に意味付けをして、自分がそこで働くことの意義を自ら作り出してきたのではないでしょうか。パーパスが今のように出てくるよりも前からです。

AppleやGoogle、NIKE、Samsunなど欧米の企業を見ていると、日本的なやり方を真似したわけではないんでしょうけれど、企業としてのアイデンティティや理念を定義して、それをうまく打ち出していますよね。一方、日本の企業はというと、強引にアメリカ型の考え方を導入して会社を作り変えるとか、こういった企業が増えているように思います。アメリカ型を導入しようということなんでしょうが、果たしてどうでしょうか。
田中:では、日本企業はらしさ・良さを取り戻してほしい、ということになるでしょうか。逆に、いい加減で中途半端だから日本企業はダメなんだとも言われているようですが。
石井:「持続可能性」という観点では、日本には非常にうまい経営をしている企業がたくさんあるんですよ。ぽーんと流行って、大きく稼いで、時代の変化とともに潰れていく会社のほうが多い中で、日本には100年、200年、500年と続く会社もあります。もちろん、島国という地理的な要因もあるとは思いますけれど。
ブランドの方向性を「指示」できる人間なんて1人もいない
田中:実務家に向けて、進化するブランドの考え方をどう仕事に活かすと良いかについてもお聞きしたいです。
石井:あなた(経営層)が触らないほうが良い、ということに尽きます(笑)。

田中:なるほど(笑)。
石井:私は、どこかの企業の執行役なり会長を務めることもありますが、その役をおりたら、一切議論の場には出ません。なぜなら「自分が作ってきた、携わってきたブランドの在り方とは違う」と言ってしまいそうだからです。それは、絶対に言ったらダメなことだと思います。
周知を合わせて、今のブランドが作られています。誰か1人ないし数人が上に立って、「こちらへ進みなさい」「それは間違っている」なんて、言えるわけがないと思うのです。そんなことを言える人は、経営者しかり、きっと誰1人いないはずです。本来は自由にうごめきながら進化していくはずが、管理や権限によって動きがストップし、陳腐化したり、崩れていったりするのではないでしょうか。