オンデマンドで若いユーザーを獲得
──今回は、UltraImpressionのアドサーバーの導入事例について伺います。まず昨今の放送業界の状況をふまえ、オンデマンドの位置付けをうかがえますか。
田中:業界としては減少傾向にあります。テレビ放送では番組をタイムテーブルに沿って放送するので、オンタイムに視聴、あるいは録画予約をしないと見られません。しかし利用者の方々は忙しく、放送時間に合わせるのが難しくなってきています。
競合として、利用者の好きなタイミングで好きなコンテンツを見られる動画配信サービス(以下、VOD)が増えてきました。そこで弊社は、生活者の生活変容に対応するべく、2015年にオンデマンド配信サービス「J SPORTSオンデマンド」を立ち上げました。
田中:またケーブルテレビやBS、CSで放送契約をしている利用者の72%が50代以上です。しかしJ SPORTSオンデマンドでは、20代以下が35%と一番多く、40代以下は全体の72%になり、若い会員を取り込めています。
──J SPORTSオンデマンドについて教えてください。
田中:ラグビー、野球、モータースポーツ、サイクルロードレースをメインに、様々なジャンルのスポーツ中継が見られるプラットフォームです。オンデマンドでは、それらのコンテンツがアーカイブされ、いつでも見られます。年間2,000番組、6,000時間のコンテンツをお届けしていて、他にこれだけの量のスポーツコンテンツを扱っている放送局や配信業者はないと思います。
マネタイズの狙いとアドサーバーの導入
──メディアのマネタイズに至った経緯を教えてください。
田中:以前から広告配信をしてマネタイズする話はありましたが、有料のオンデマンドサービスの中でさらに広告配信を行うことについて、社内で様々な議論がありました。2023年頭にオンデマンドをより収益化をすべく、広告配信をしていこうと意見がまとまりました。
──アドサーバーを導入時の課題感についてお聞かせください。
関:まず私たちの命題として、多様なコンテンツを安定して届けることが根幹にあります。2022年12月にJ SPORTSオンデマンド配信システムをリニューアルしました。そのため、アドサーバーはリニューアルした配信システムに連携させられることが前提条件としてありました。
また、2023年9月~10月にフランスで開催する「ラグビーワールドカップ2023」までに広告配信を安定稼働させることが必須でした。しかし適切なタイミングで広告配信を始めなければ、視聴者の方に違和感を持たれる可能性があります。そこで、プロ野球開幕を中心に国内スポーツがシーズン開始する2023年3月から先行してインストリーム広告を開始することが求められました。
田中:実は前職の放送局でもOTTサービスの立ち上げを行い、広告配信を検討したことがありました。そのときに苦労したので、アドサーバーの選定においてサポート体制が手厚い会社であることは欠かせない要素だと考えていました。まずはパートナー探しから始め、最終的にUltraImpressionさんと他数社でコンペをする形にさせていただきました。
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UltraImpressionアドサーバーの特徴
──J SPORTSの課題に対し、UltraImpressionはどのような提案を行ったのでしょうか。
小野:国内でインストリーム広告を主戦場にしているベンダーはまだ少ないので、まずは我々が放送局と行ってきたビジネスの実績をお伝えしました。J SPORTSさんのようにライブ中継を放送とデジタル両方で配信し、広告をリアルタイムで流すというご要望に応えられると考えました。
小野:TVerのリアルタイム配信で培った、安定稼働できる実績がある点。また、インストリーム広告をマネタイズする上で、各広告会社やアドバタイザーのニーズに対し、応えるためにどういう機能が必要なのかということが理解できている点もお伝えしました。
さらに、システム面だけに限らないサポートについてもお話しました。たとえば市況や販売ノウハウから、セールス後のレポートの出し方など、ビジネスコンサルティングも行える点などです。
──UltraImpressionのアドサーバーの何が決め手となりましたか。
田中:やはり人的支援が手厚い点です。システムのサポートだけではなく、アドバタイザーへの企画書の内容を添削していただいたり、販売するパッケージの金額をご相談したりもしました。
関:最終的な到達点のイメージが持てないと、システム構成のどこを開発していくかが見えません。コンセンサスを丁寧に取り、最終的なイメージを関係者全員で共有できた点がよかったです。我々技術サイドとしては、配信でインストリーム広告を流すためにはどういうソリューションを導入すればいいのかも、まったく知見のない状態からのスタートでしたから。
──UltraImpressionのアドサーバーには、どのような特徴がありますか。
木村:これまでテレビ朝日でメインのアドサーバーとして使ってきて、VODとライブ配信それぞれに対応しています。また、TVerのオフィシャルアドサーバーとしても採用されているので、様々な広告配信の形態に対応しているのも特徴です。たとえば、番組のどのCMポジションにどういった順番で広告を配信するかを細かく指定できる機能を有しています。そうした放送局のセールスに寄り添った設定ができる点は大きな特徴です。
小野:アドバタイザーはデジタル広告のレポーティングを重視することが多いので、配信後の分析が詳細にできるようなデータ設計にしています。また、当社にはデータ分析のチームがあるので、アドバタイザーに出すレポート作成をサポートしたり、在庫分析をしたりといったこともできます。
たとえば「こうしたターゲティングができるとより付加価値をつけて売れますよ」といった広告ビジネスに関する知見もご提供できます。
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目標値を大きく上回る広告セールスを実現
──実施したお取り組み内容についてお聞かせください。
木村:2023年3月から開始するまでの時間がタイトだったので、3月までにできる第1フェーズ、その次の段階で取り掛かる第2フェーズと分けて計画を立て、進めていきました。その時点から5年後、10年後を見据え、J SPORTSさんがマネタイズできることを主眼に置いてシステム設計をしています。
その一環として、J SPORTSさんの会員情報も広告配信に活用できるようにしました。
小野:第1フェーズとして、ライブ中継での広告配信を実施しました。9月にあったラグビーワールドカップ2023は、フランス開催で時差がありました。見逃し配信の需要が予想されたので、第2フェーズとしてそれまでに見逃し放送でも広告配信をできるようにしました。
また、広告運用も我々が支援しています。インストリーム広告の運用は独特のノウハウが必要になるためです。
田中:フェーズを分けてしっかり開発計画立てていただいたところが、非常に頼もしかったですね。ラグビーワールドカップ2023は開催地フランスとの時差があったこともあり、どのくらい広告が売れるのか予測しづらかったです。しかしTVerでの知見に基づいたデータを提供いただけて、すごく助かりました。
──広告配信を始めてからの成果や手ごたえはいかがでしょうか。
田中:放送の会員はシニアが多いのですが、アドバタイザーからは「オンデマンドで若い方にも見ていただけるのがいいね」という声をいただけました。今までBSやCSだけでの出稿をためらっていた企業も含め、放送とオンデマンド両方の広告を買っていただけるようになっています。
その結果、「ラグビーワールドカップ2023」は目標値の130%の売上になり、2023年度全体では目標値の120%の売上で、大きな手ごたえを感じました。
──UltraImpressionさんにお願いしてよかった点はありますか。
田中:やはり配信前後のビジネスコンサルティングや運用の部分までワンストップでお任せできることです。こうしたサポート体制があったからこそ、広告配信の知見がゼロから始まったにも関わらず、広告事業を垂直立ち上げできました。
また、デジタル広告にもテレビCM広告にも精通されているのでそれらの良いところを合わせたサポートも魅力です。大手アドバタイザーからは難易度の高いレポーティングを求められますが、納得感を持っていただけるものを出せています。
関:テレビ放送と同様に、ハーフタイムでプレイが止まっているなど適切なタイミングで広告を差し込むといった、精度の高い配信を実現できた点もよかったです。
会員データを活用したセグメントなど、さらなる機能強化を目指して
──最後に、今後の展望について教えてください。
田中:2024年は、野球コンテンツのマネタイズがミッションになっています。また中期的な展望としては、J SPORTSオンデマンドの収益性をより高めるため、様々なターゲティング機能を持たせていきたいですね。
関:技術面で期待する開発は一旦落ち着いてる状態ですが、アドバタイザーのニーズ次第では変化に応じてUltraImpressionさんと共に開発を進めていけたらと思っています。また、すでに開発済みの機能でまだ活用できてないものがあるので、今後はそれらも利用促進していきたいです。
小野:アドサーバーの立ち上げからうまく軌道に乗せられたので、2024年度はよりオンデマンド配信の収益化をお手伝いできればと思っています。今あるアセットを活用しつつ、今後はまだ売り切れていない在庫をマネタイズしていけたらと思っています。
我々も、UltraImpression DSPという商品を持っていますので、たとえばTVerとJ SPORTSセットで広告配信をしたいというニーズに対応することもできます。ターゲティングももちろんできるので、ブランディングを担当されているアドバタイザーや広告会社にはぜひご相談いただきたいです。
木村:引き続き、J SPORTSさんのマネタイズに必要な機能開発や、安定したシステムの供給に尽力できればと思っています。さらに、他の動画メディア事業者にも、インストリーム広告の導入や収益化のご支援ができればと思っています。
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