新規事業の認知拡大のため、テレビCM施策を決断
ミスミは1963年の設立以来、製造企業に向けて機械部品の製造・販売を手掛けている。3,000万点、800垓というバリエーションを誇るECサイトを運営しており、売上比率の半分は海外というグローバルなBtoB企業だ。
2019年からは、機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy(メビー)」のサービスを本格始動させた。これは、部品の設計データをアップロードするとAIが瞬時に価格と納期を提示し、注文と同時に工場へデータが転送されて機械部品を製造。発注から最短1日で出荷できるというものだ。従来、数週間かかっていた特注形状の精密機械部品などを、圧倒的なスピードでの受注生産を可能にした。
そんなメビーのさらなる認知拡大を目指し、同社では2021年からテレビCM施策に取り組んだ。BtoB企業ながらCM施策に踏み切った背景について、プロジェクトを担当したミスミの津田氏は「メビーはサービスの特性上、これまでの部品手配とは違う、新しい部品手配の方法を広く提案していく必要がありました。そこで新規サービスとしての認知拡大、初期フェーズでの顧客獲得に課題を感じ、CMを制作することにしました」と振り返る。
CM施策のポイントは「メッセージを一つに絞る」
同社はCMを制作する上で「誰に」「何を」伝えるかを特に大事にしたという。定量・定性(N1インタビューなど)調査を実施し、「顧客にとって最大の便益は何か」を追及することでメッセージを絞ったと津田氏は述べた。
「事業会社側からすると伝えたいことは数多くありますが、15秒や30秒という短い時間ですべてを伝え切ることは不可能です。そこで、組み立て・装置ライン・設備設計者をターゲットにし、伝える便益も『3Dデータをまとめて1分見積もり』というメッセージだけに絞りました」(津田氏)
その後、実際に「後輩編」「先輩編」という2本の30秒素材を制作。前者は1分見積もりについて解説し、ユーザーの理解を狙ったもの。後者はターゲットのペインを提示することで、共感を生むことを目指した内容になっている。
CM放送後10分以内にWebサイトへ流入したユーザー数で評価を行い、その結果「後輩編」の流入ユーザー数が多かったことで、途中からはこちらに絞って放映を継続した。加えて、CM素材はYouTube広告にも活用。テロップを大きく表示したり検索窓を表示したりと、YouTube用に編集も施した。
一方、クリエイティブ・ディレクターとしてBtoB向けのCMを多く手掛けている北尾氏は、評価基準に対して「CM放映後10分以内にWebサイトに流入という縛りはなくしてもいいのでは」と見解を示す。
「toB向けサービスの場合、CMを見てすぐにWebサイトを見るかというと、難しい面があると思います。担当者が出社後、思い出して検索することもあるでしょう。24時間以内、1週間以内、1ヵ月以内などそれぞれデータを取得すれば、新たなインサイトの発見につながりそうです」(北尾氏)
また、ただでさえ予算が必要なCMで、15秒ではなく30秒を選んだのはなぜだろうか。津田氏は「30秒かけてサービスの特徴までしっかり理解いただくことを重視しました。サービス認知に留まらず、利用意向までをCMで一気に目指す狙いでした」と語る。
さらに同時期にメディア懇親会を開催し、CM放映時は製造業向けの大規模展示会の開催期間に合わせ、クロスマーケティングの仕掛けを施した。その結果、Xでのポスト数が拡大。一時期はトレンド入りも果たすなど、認知拡大につながった。また、特に中小企業の顧客層で新規ユーザーを多く獲得することに成功した。