「使い手」「使い方」「使う場面」の正しい理解で、リサーチは価値を生む投資に
ファミリーマートでは下図の通り、MDプロセスにおける商品政策から上市後の販売後検証までの各段階、そして定期的なブランドの状態把握、ロイヤルティの計測などでそれぞれデータ分析・リサーチを実施しているという。そのうちプロモーションの段階についてはマーケティングを主体とした独自性のあるコミュニケーション設計を行うため、あえて調査を行っていないのも特長の一つだ。
こういった調査を複数実施しているのだが、単に調査を行うだけでは意味がないと出下氏。彼のチームでは、「データ経営」を実行・推進するにあたり、五つの事項で関係者を巻き込みながら徹底しているという。
それは、「問い」「課題設定」「仮説構築」「アクション・利活用」「思考・役割」だ。特に「問い」「課題設定」「仮説構築」の三つにおいては、関係部署の協力を得て整理することが求められ、「現段階で得られるファクトから仮説を立てるべき」と強調する。もしこれらを調査開始前にきちんと整理しなかった場合、目的も調査で出てくる答えも曖昧になってしまい、アクションにつなげられなくなる。これは、アウトカムが無意味なものになるので、調査自体が無駄なコストに変わることを意味すると出下氏は語る。
さらに出下氏は、マーケティングリサーチ不要論者の多くは、上図の目的~アクション・利活用のポイントが明確にできていないことに加え、「思考・役割」の部分で大きな誤解をしていると続けた。
「マーケティングリサーチ不要論は、『消費者に聞けばなんでも答えが出る』という考えが根源にあることが多いです。しかし、これでは職務放棄しているのと同じことだといえます。お客様は自ら答えを教えてくれるわけではありません。消費者調査はあくまで与えられたヒントをつなげ、それを事業者側で自ら思考していくための材料である点を忘れてはいけません」(出下氏)
これらを踏まえた上で、出下氏は、自身が管轄するCMIの役割をただ単に消費者の希望を叶える部署ではないと強調。他の部門から独立してナレッジを集約し、ビジネスに対する提言を全社に対して実施する。消費者理解には費用がかかるが、それは使い手と使い方、使う場面をきちんと理解して実施することで、コストではなく、価値を生む投資になる。そして、それができる専門スキルを持ったリサーチャーやアナリストといった専門組織を組織の重要な位置に設置し、組織全体に対して実装・推進する提言ができる役割を持たせるべきであると出下氏は語った。
マーケティングリサーチ実施の有無で商品の販売数が月当たり平均で160%の差分に
続いて出下氏は、顕在化したニーズに対して同社が実施した商品企画・開発の取り組みについて事例を紹介した。
例として挙げられたのは、同社のヒット商品「生コッペパン」の開発までのリサーチ活用。パンのカテゴリーに定番を作ることを目指し、コンセプト評価を行ったという。
生コッペパンの開発は、従来のコッペパンに消費者が何らかのペインを抱えているのではないかという問題提起からスタート。「ボソボソ、パサパサ」という食感のマイナスイメージに対し、ノスタルジックな世界観・素朴さはそのままに「もっちり生食感」という新しい価値なら解決できるという仮説を立てた。このアイデアの実現とともに、コミュニケーション施策が上手く嚙み合ったため、累計販売食数で1億2000万食(24年2月15日時点)を突破する大ヒット商品となり、定番化に成功したと出下氏は語る。
さらに、出下氏はリサーチの必要性の根拠を示した。一例として挙げたのはパンカテゴリーにおいてリサーチを行わなかった商品と行った商品の比較データだ。その結果を見ると、コンセプト調査と商品企画・開発が連動した生メロンパンと生コッペパンでは販売数が大きく向上。月当たり平均160%の差分を生み出していることもわかる。初期段階から一連のリサーチ、評価を行い、すべての調査で得られた示唆を活かしながら数珠つなぎのようにつながったアクションをしたことによる成果だという。
出下氏は次のように話し、セッションを締め括った。
「マーケティングリサーチが上手くいくかどうかは、使い方、使いどころ、使い手の三つに大きく依存します。さらに組織内に消費者理解を徹底的に行い、高いスキルを持った専門職となるマーケティングリサーチャー・データアナリスト実装の有無も大きな要因です。
リサーチの不要論者は、これらの役割と機能、リサーチでできることとできないことの線引き、マーケティングリサーチャー・データアナリストの組織内での枠割の設置の重要性を理解していないために、消費者理解の真の意味やリサーチの価値がわかっていないのだろうと私は考えています。それらの不足・不在のまま『お客様に聞けば何でも答えがわかる』という考え方だと、課題の抽出・設定も、本質的な解決すべき問いの設定もせず、また仮説からお客様の欲しい価値を考えるという事業者サイドのミッションを放棄していることになります。マーケティングリサーチは消費者との対話です。対話なくして消費者理解はできない、ということを改めて認識していただきたいと思います」(出下氏)