消費者目線を持ったままデータを読み解く方法とは?
1つの施策の効果が正確に測定できるようになれば、複数施策の比較も一定程度可能となる。しかし現実として、「同じクーポンを配布しているのにもかかわらず、店舗間で全然結果が違う」というケースも出てくる。
松本氏は、そのような結果の読み解き方について解説した。
同じ商品に使えるクーポンで、割引率と利用可能期間が異なる2つのクーポンがある。Aのクーポンは、1ヵ月間出続けていて、割引率は5%、期間中は何度でも使える。Bのクーポンは、2日間だけ使え、割引率は10%を毎週出している。
この2つのクーポンを比較すると、Aのほうが高い顧客生存率だったという。理論的にはBのクーポンを使ったほうが安く買えるはずだが、Aのほうが圧倒的に顧客の固定化が起こった。この解釈が、本セッションのテーマである「行動変容を促すデータ分析」に直結してくると松本氏は語る。
ここでまた柳下氏から松本氏に対して質問がなされた。
「行動心理学的な要素を考えるのも分析の醍醐味です。データ分析担当者やマーケターが行動心理学的な要素を加味してデータを扱うときの重要な観点は何でしょうか」(柳下氏)
この問いに対し、松本氏は「自分が消費者だったらどうするかという視点を持つこと」が大事だと語った。
「特にデータサイエンティストが陥りがちなのが、分析手法は熟知しているものの、現実的にはあまり使える施策につながらないケースです。そのときに求められるのは、『自分が消費者だったら』という視点を忘れないこと。素人的な目線も含めて、定性的に考えることも大事です。その意味では、その人のビジネス経験、人生経験が、最終的なアウトプットの質に影響すると思います」(松本氏)
この意見に対して柳下氏も、「ユーザー心理を考えなければ、そもそもビジネスサイドと意見がすり合わない。分析結果はエビデンスの一部に過ぎないので、局所的な分析の議論に終始せず、全体感をもった柔軟性のある議論を意識する必要がある」と付け加えた。
行動変容の要因を正確につかみ、指標化する
次に提示されたのは、顧客の行動の固定化を深掘りする検証結果だ。
たとえば、商品Aを買うつもりがあり、すでに外出している顧客は、「どの店舗に行くか」という選択肢があったときに、店舗Aからクーポンが出ていると、店舗Aに行く可能性が高まる。この場合、商品Aを買うつもりがない、外出もしていないというケースに比べ、当然クーポンによる行動変容が起きやすいと言える。しかしこれだけでは考察が足りないと松本氏はいう。
「店舗Aに行くという行動が先に固定化されているケースがあります。行動習慣としていく店舗が決まっていて、ちょうど今回のクーポンが出ていたから使うというケースです。消費者目線で考えると、いろいろな企業からクーポンが配られている中、1個1個チェックして、『数十円安いから行く店舗を変えよう』とする人は少ないと思います。つまり、今回の分析のケースでは行動の固定化が先行するという前提があるのです。この考え方を用いると、先ほどのケースが読み解けるようになります」(松本氏)
松本氏の言葉を言い換えると、先述した、「割引率が低いクーポンのほうが、割引率が高いクーポンよりも顧客生存率が高かった」という結果の理由が、行動の固定化にあるということだ。クーポンを「ずっと使える状態」が、顧客の行動の固定化を誘引し、生存率を高めていたのだ。
実際の分析方法としては、顧客が来店したときの「クーポン利用可能率」という指標を作成。顧客が来店したタイミングで利用可能なクーポンが出ている確率を集計し、分析の説明変数として使用した。その結果、このケースでは来店時のクーポン利用可能率が60%を超えると、顧客生存率との相関を示すという数字が出たという。
クーポンに対して「割引率が高いクーポンほど使われやすく、集客に直結する」という考え方は自然にみえる。しかし今回の分析結果は、一見すると全く反対の結果のように見える。このような「先入観」と相反する結果が出てきたときに、「データや集計方法が間違っている」と断定せずに正しく顧客行動を捉えられるかどうかが鍵となる。
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