デジタル専業エージェンシーには限界が来ている
有園:Hakuhodo DY ONEは、博報堂DYグループの中核企業になったのでしょうか。
小坂:そうならないといけません。私は、時代の流れとともにデジタル専業の広告会社には限界が来ていると思っています。当社は、グループとしてデジタルを含む全ての広告を取り扱っていることが強みです。大手総合広告会社のグループだからこそ、改めてデジタルにチャレンジできる。チャンスが来たと思っています。
有園:デジタル専業エージェンシーとの差別化ポイントとしては、マス広告を組み合わせられること、そして事業成長をサポートするためのコンサルティング能力があることですね。では、他の大手広告会社と比べたときの強みは何ですか。
小坂:デジタルエージェンシーとしての機動力が最も大きいですね。また、DX支援だけでなく、メディア戦略のプランニングやデジタル起点のクリエイティブにも力を入れています。さらに、DACが母体でもあるので、テクノロジーも強みです。エンジニアの人数は業界でもトップクラスです。
有園:社名の「ONE」については、「グループ全体が一つになる」という意味のほかに、「業界で1位になる」目標を意味しているというお話も聞いたことがあります。
新中期経営計画の資料によると、グループ全体のデジタルの売り上げ規模は4,000億円程度。そこから5,000億、6,000億を狙うということですね。業界トップになる時期はいつごろを見据えていますか。
小坂:よくご存じですね!(笑) 業界ナンバーワンのポジションも当然目指していきますが、社名には、グループ全体が一体となってデジタルの先の未来を創っていきたいという想いに加えて、我々が誰かにとって大切なONE、クライアント企業にとって唯一のONEとなれるよう力を尽くしていきたいという想いが込められています。 このたびの統合によって、Hakuhodo DY ONE単体で3,000人強の規模になりました。ナンバーワンに向けて頑張っていきたいと思います。

業界トップを狙う戦略とは
有園:業界トップのデジタルエージェンシーには、どうやって追い付くのですか。戦略を教えてください。
小坂:これまでは、広告効果を最大化することに注力してきましたが、これからは、広告効果はもちろん、今まで以上に「顧客の事業成長」に一層コミットしていきます。色々と仕掛けていることはあるのですが、 プランニングが大きな強みであることに加えて、クリエイティブの質を最大限に高める取り組みの強化や、それぞれのメディアに最適化したクリエイティブを制作することで、成果の最大化につなげています。
また、各世代に対して有効なマーケティング施策を研究しており、5月には「令和シニア研究所」を立ち上げました。 Z世代向けのクリエイターを集めたチームも作っています。
テクノロジーの強みも生かします。また、博報堂DYホールディングスは4月に「Chief AI Officer」として森正弥氏を外部から招き、グループ全体のAI戦略を強化しています。当社でもAIを活用した施策の実施や研究開発を推進しています。
AIに関しては、大量にクリエイティブを作成する使い方ではなく、AIを意識的にコントロールして最適化することを打ち出しています。「XAI(Explainable AI、説明可能なAI)」も注目されているように、AIの判断の根拠を説明できる状態で活用することが重要だと考えているからです。博報堂DYグループはクリエイティブを大事にする文化があります。AIを使って無尽蔵に作るのではなく、「受け手がどう受け止めるか」を重視しています。
有園:博報堂が3月に、生成AIを使って7,000タイプの「バーチャル生活者」を生成した、と発表していますね。
小坂:生活者を深く理解するためのサービスに生成AIを活用する取り組みです。バーチャル生活者との対話を繰り返すことで、商品・ブランドに対する感想や生活での悩みなどを知り、マーケティングや商品開発に生かします。これは、大量にクリエイティブを作って最適化するという考え方とは異なります。