顧客視点での企業価値を表すcLTV指標とは?
木原:もう1つ、日本企業が起こすべきアクションがあります。前編でも少し言及しましたが、顧客体験が企業価値にどのように繋がっているかを解明するということです。
日本にも横断組織としたCX(顧客体験)部門を設けている企業はありますが、各事業部に対して「CX」という横串を通せているかというとまだまだ十分ではないように見受けられます。たとえば、マーケティングにおける各チャネルの管理も事業部ごとに行っているケースが多いのではないでしょうか。
顧客体験の向上が事業成長にいかに繋がっているか――これを明らかにしなければ、CXへの投資や組織の強化も実現しません。それどころか、景況感が悪く、必ずしも前向きな投資ができない状況になった時、最初にコスト削減の対象になるのが「CX」になってしまうでしょう。
MarkeZine編集部:顧客体験の充実度が売上成長に繋がっていることを示すために、どのような方法が考えられるでしょうか?
木原:アクセンチュアでは LTV指標に加え、cLTV指標を持つことを提唱しています。ある顧客が自社と取引を始めてから終了するまでの総利益を表す指標としてLTVがありますが、誤解を恐れずに言うと、LTVは企業目線で見た顧客価値です。一方、cLTVは、顧客目線で企業が自分に提供してくれると感じる価値の総和を示す指標で、近年重要視され始めています。
LTV指標:cLTVを蓄積した結果としての売上、注文数、単価、リピーター数など
cLTV指標:製品・サービスの提供を通じて顧客が体感する価値の先行指標としての提供品質、店員エンゲージメント、結果指標としての顧客満足度など

LTV×cLTVを高速回転させている飲食チェーン
MarkeZine編集部:cLTVを蓄積するための一連のフローについても教えて下さい。
木原:最終的にはLTVとcLTVの高速回転を見ていくことになりますが、そのサイクルを回していくには顧客と長く付き合い、満足度を継続的に高めていく必要があります。そのためには、人とテクノロジーのそれぞれの強みを最大限生かして、ときにはブランドの単位も越えたシームレスな商品・サービスを提供し、あらゆるタッチポイントにおける顧客体験を刷新していかなければいけません。
また、価値やストーリーも含めてブランドアイデンティティを再定義することで、初めて顧客体験と企業収益が連関するようになります。ただ、これらを人間だけで行うのは非現実的ですから、やはり下支えとなる基盤を、テクノロジーを上手に活用して構築することが重要になります。

MarkeZine編集部:LTVとcLTVの分析サイクルを回せている、お手本のような企業はありますか?
木原:サラダ専門の飲食店「CRISP SALAD WORKS」さんの事例があります。同社は売上、ユーザー数といった企業目線のファイナンシャル指標(LTV指標)から、顧客満足度や提供品質、店員エンゲージメントなどのcLTV指標までをリアルタイムに収集し、指標が載っているダッシュボードを15分に1回更新しています。実はこのダッシュボードは、Webサイト上で社内外に公開されているんですよ。
興味深いのは、これにより企業姿勢を世に示すことができているのと同時に、マーケティング以外の営業や人事などの各部署も分析を行い、施策の検討や投資判断に活用しているということです。ダッシュボードのデータを基に、顧客満足度が1ポイント上昇すると次の来店者数がどのくらい上がるのか、売上がどのくらい上がるのかという具合に、その他の結果とともに科学的に検証しています。科学的な証拠があるからこそ、顧客体験への投資を継続できるわけです。