戦略的にブランドイメージを構築してきた「BMW」から学べること
田中:ここで、「優れた自動車ブランドとは一体どういうものか?」という問いについて、お二人の考えを聞きたいのですが、山崎さんいかがでしょうか。
山崎:ブランドの定義によりますが、統合的なブランド力でいうと、トヨタとメルセデス・ベンツが断トツで強いと思います。ですが、ここで注目したいのは、戦略的にブランドイメージを構築してきたメーカーのほうです。古い例で言えばBMW、新しい例で言えばテスラが該当します。
BMWの場合は、1960年代の経営者が「BMWをベンツに並ぶプレミアムブランドにする」と先にゴールを決めて、ゴールにたどり着くにはどうしたらいいかを考えるアプローチをとりました。当時、「高級車と言えば」のブランドイメージは、既にメルセデス・ベンツが確立していたので、BMWが同じポジションを目指そうとしても、絶対に敵いません。
なので、別の山(高級車に関するイメージ)をつくろうとしました。具体的には「運転することを楽しみたい人のためのスポーティーな高級車」という山を作って、その頂点にBMWを持っていこうとした。別の山でメルセデス・ベンツに対抗しようと、戦略的に構図を考えたわけですね。結果、地道に30年かけてその山を本当に創り上げましたから、素直にすごい話だなと思います。
BMWには、有名な創設者やエンジニア、デザイナーがいません。それは戦略的に創り上げたブランドだからなのです。
田中:BMWが困難から立ち上がってきてブランドを創った、というお話は私がかねてから言っている「ブランドは危機の産物である」ということと一致しています。企業は危機に陥ると自分を見失って自分のブランドのアイデンティティを「拠り所」にして再生しようとします。それは、そうせざるを得ないところもあるのでしょう。古くはP&Gがそうでしたし、資生堂や日立製作所もそうでした。
その意味で、日本企業がブランドを必要と考えてこなかったのはまだ真の意味での危機を体験してこなかったことと関係あるかもしれません。
ポジショニングが秀逸だった「レクサス」
田中:レクサスが登場したのは、さらにその後、1989年ですね。
高田:はい、メルセデス・ベンツとBMWが「ステータス」「スポーティー」のポジションをとっていましたから、従来の高級車の枠組みで考えると、もうレクサスには残された場所がありません。そこで、レクサスは別次元のクオリティと販売店のホスピタリティを備えた、“威張らない”“ちょっと控えめな”ラグジュアリーというコンセプトをとりました。
厳密には、レクサスを立ち上げたのは米国トヨタです。この「威張らない」というのが、当時のアメリカ人にはとても新鮮だったんですね。特に、ベビーブーマー層に受けたと言われています。
山崎:レクサスは、コミュニケーションも素晴らしかったですね。
高田:そうですね。ボンネットの上にシャンパングラスをピラミッドのように重ねて走り、低振動性と静粛性を徹底的に訴求しました。機能価値を極めてエモーショナル(情緒的)に伝えているという点で、あのCMは本当に素晴らしいです。
もう高級車のポジションはないと思われていた中で、メルセデス・ベンツとBMWとは違う軸で見事ポジショニングに成功しました。最近、ポジショニングはあまり意味がないという意見もあるようですが、やはりレクサスの成功はポジショニングが要だったと思います。
『注目のEV市場で日本の自動車メーカーは戦っていけるのか|「これからの自動車ブランドの在り方」後編』も近日公開予定です。ぜひ後編もあわせてご覧ください。
