長期的なブランディング効果を取るか、短期的な数値目標達成を取るか
──これまでの運用を変えるとなると、様々な課題があったのではないでしょうか?
津野:そうですね。支援いただいているホットリンクさんからも、長期的なブランディングに振り切ることは賛成いただいたのですが、運用変更により、従来の数値を維持できなくなる可能性も共有されていました。そこで数値の変化を見るために、KPIなしで様々な検証を行う期間を3ヵ月設けました。その結果も踏まえて仮にリーチが低下してもInstagramはあくまで情報を保存し、いつでも見返せる「情報のストック場」と定義することにしました。
一方、Xは「お客様との密なコミュニケーション」や「鮮度の高い情報の発信」といった役割の比重を大きくすることにしました。このように商品情報の提供やお客様とのコミュニケーションという基本方針は維持しつつ、InstagramとXの役割をより明確にすることにしました。
──数値を維持できなくなるかもしれないとなると、社内の説得も大変だったかと思います。
津野:各ブランドの担当者も、ブランドの世界観を大切にしたいという思いを共有していたため、社内の説得という点では大きな障壁はありませんでした。むしろ、積極的な賛同を得られたと感じています。
コーセーは多数のブランドを展開していますが、その多くは独自のSNSを運営しており、「KOSÉ公式アカウント」のように3つのブランドを一つのアカウントで運用しているケースは他にありません。そのため、私たちは自ら試行錯誤を重ねていく必要があることを自覚しています。
SNSは数値として成果が可視化されるため、短期的な評価に偏重する傾向があると考えています。これがSNS運用の難しさの一因となっているのではないでしょうか。もちろん数値は重要な指標のひとつです。期待したほどの反響を得られなかった投稿については、その要因を分析する必要があります。しかしながら、ブランディングという中長期的な取り組みにおいては、数値のみで「よい」「悪い」を単純に判断することは難しいと思います。
既存のリソース内で改善ができた理由
津野:2024年1月以降、様々な要素を見直しながら最適な運用方法を模索してきました。たとえば横1列に同じブランドの投稿が並ぶようにしたり、グリッド投稿を活用し、視覚的に整理された形で各ブランドの情報を提示したりしています。

──改善を考えるとやりたいことがたくさん出てくる反面で予算や人的リソースという制約もあるかと思います。その点はどうしましたか?
片貝:新たな運用を実施するにあたり、リソースやコストなどの制約を考慮しながら、できること・できないことを考えました。現在、すべての作業を運用担当のホットリンクさんにお願いするのではなく、私たちでその一部を責任をもって進行する形に変化しています。
たとえばグリッド投稿の場合、各ブランドへのヒアリングが必要な投稿順序・グリッドの配置順はコーセー側で大枠を調整し、ホットリンクさんには具体的な投稿内容や撮影方法を考えていただくことにしました。このような役割分担により、既存のリソースと予算内で大幅な運用変更を実現することができました。