検索エンジンで集められない情報の重要性
有園:検索行動はしているけれど、その場所がSNSに広がっているということですね。
私の記憶では、SNSが日本で普及し始めた頃、すでに大手検索エンジンの会社では、「SNSが普及すると収集できない情報が増える。相対的に検索エンジンの価値が下がる」という危惧がありました。SNSだけでなく、会員制有料サイトやモバイルアプリの情報も、検索エンジンだけでは対応できません。
実際、検索エンジンが収集できている情報は、ネット上のデータのうち数%にすぎない、という話もあります。だから、検索エンジンだけを使うのではなく、新聞や本はもちろん、有料メディアの記事などにお金を払う価値は十分あるわけです。
検索エンジンについては、広告収入を得るためだけに作られたサイト「MFA(Made-for-Advertising)」も大きな問題です。MFAによる検索エンジンのクオリティ低下について、どう考えていますか。
渡辺:低品質なコンテンツが人力で作られていた頃は、日本語として成立していない文章を載せたページが多く、アルゴリズムで見分けられました。しかし、生成AIによって、きちんとした文章を大量に生成できるようになってしまいました。
実際に海外では、大手メディアが記事を配信した数分後に生成AIでリライトした記事を配信すると、Googleのニュース検索枠を後発のサイトが奪ってしまうという話もありました。日本では、海外の大手メディアの英文記事を日本語に翻訳して、架空のライター名を入れ、広告を貼り付けたページを作り、Googleから集客して広告収入を得る手口がありました。
有園:対策に必要なのは、まずはパブリッシャーの審査。反社会的な団体が広告で稼ぐことを許してはいけません。生成AIで作られているコンテンツもチェックすべきです。次に、ユーザーがボットでないかどうか。ボットでサイトにアクセスしてインプレッションを稼ぐ行為を防ぐため、ユーザーの認証が必要です。そして、広告主が詐欺広告などを出す組織でないかどうかも確認しないといけません。審査は技術的に難しい部分もありますが、プレーヤー3者をしっかり確認することが必要です。
「ユーザーがどこにいるか」を見極める
有園:このような時代の変化を踏まえて、検索エンジンマーケティングは今後、どうなっていくと思いますか。
渡辺:今、Googleの検索結果画面は、AIによる回答が上部に出るようになっていますが、あれは2~3年でなくなると思います。生成AIの特性を考えると、AIの回答をそのまま表示してもあまり意味がないからです。
今後は、大手ECサイトなどのプラットフォームの中に、エージェントとしてAIが組み込まれるんだろうなと思います。例えば、ネット通販で服を買うとき、海外のサイズと日本のサイズを比較するために検索エンジンを使うことも多いですが、ECサイトの中でAIエージェントに質問できれば、検索しなくてもサイズがすぐに分かります。旅行予約サイトでも、自分で条件を入力して情報を探すのは意外と面倒ですが、AIエージェントに要望を伝えられればすんなり進むのでは。一般検索よりも、それぞれのプラットフォームやアプリの中で生成AIが手助けをする、という世界になるのではないかと思います。
また、以前はみんながGoogle検索を使っていたため、SEO対策が重要でした。しかし、それが必ずしも正しい時代ではありません。例えば、TikTokで買いたい商品を検索して、そこから直接ECサイトに行って購入する、という行動も今は一般的です。ターゲットユーザーがどこのプラットフォームにいるかを識別して、そこで検索する人に対して自社のコンテンツを届けることを考えないといけません。
有園:以前、IT批評家の尾原和啓さんと対談したとき、尾原さんは「AIがUXに練り込まれていく」という話をしていました。たとえば、Microsoft CopilotなどのAIサービスでは、AIがユーザーの状況に応じて、さまざまなプラグインサービスを呼び出してくれるようになっていく。それぞれのプラットフォームの中にAIが組み込まれて、ユーザーを手助けしてくれるというのは、まさに、UXにAIが練り込まれる世界ですね。本日は、ありがとうございました。
