店舗出身の米国WalmartがECで急成長する背景
全米で約4,600の店舗を持つ「Walmart」のECの伸びが著しい。これもセラー出品者の販売を支援するプラットフォーム構築のために10兆円規模の投資を行ってきた結果だ。MicrosoftによるOpenAIへの初期投資額が1兆円規模であったことと比較しても、Walmart投資の巨大(急ぎ)ぶりが想像できるだろう。
実際、Walmartの1年間(2024年1月末締め)の投資総額約3兆円とその内訳(参照p40)を見ると、米国内投資の上位3つのカテゴリーのうち「新規店舗出店」は既に投資全体の1%以下で、99%が「サプライチェーン顧客対応のプラットフォームテクノロジー、それにともなう店舗流通のリモデル」への投資となっている。この勢いは来年以降も加速し、4兆円近い規模(240億ドル)でアクセルを踏む見込みである。
先行するAmazonのマーケットプレイスには既に1,000万社近いセラー出品者が存在し、最終消費者も3億人を超えている。このAmazonのマーケットプレイスはセラー出品者にとって競争が激しいレッドオーシャン状態であった。ここに新市場であるWalmartマーケットプレイスがブルーオーシャンとして開かれたことで、テック操作のノウハウを積み上げたセラー出品者がAPI接続と共にユニファイドで流れ込んだ(参考)。WalmartのEC急成長は、新たな市場を作っている現れなのである。
「目の前のお客様を大切にする」「会員数・ダウンロード数・販売額の伸び」という言葉の響きは納得しやすいが、右側(店舗)で売れていたものを左側(オンライン)にすげ替えた自社事業内でのカニバリゼーションに甘んじていないか。
日本の小売業やメーカー主導におけるEC事業もその夜明け前としよう。物理的な配送、店舗エコシステムといった腰の重い領域でも、テクノロジー起点の新しいエコシステムの地殻変動が起きている。目の前の顧客を優先しつつ、潜在顧客(広がる未来市場)も大切に育てていきたい。