カスタマージャーニーから逆算して施策を設計
2回目のプロモーションで成果の最大化に成功した理由を「TikTokに最適化したから」だと林氏は分析する。
「凹メシ食堂はオフラインで実施されるプロジェクトですが、Z世代を相手にしたプロモーションを行うにあたり、『主戦場はTikTokである』と考えました。お店はあくまでもUGCを発生させるための装置と捉え、TikTokを施策全体のKPIとして設計しました」(林氏)
続いて林氏は同プロジェクトを進める上でのプロモーション設計の三つの手順を説明。同社ではまず「SNSでどのようなUGCが生まれるとうれしいか」を考え、その次に「ミツカンにとって理想となるUGCを生み出す空間としてお店がどうあるべきか」、そして最後に「告知・集客の設計」を検討するというように、UGCが生まれるまでのカスタマージャーニーと逆の順番で戦略を立てたと林氏は語る。
具体的には手順1として、凹メシ食堂における「理想のUGCとはなにか」を議論した。そしてミツカンがユーザーに浸透させたいキーメッセージとして「ココロの健康に向き合う会社である」「多彩なそうめんが味わえる」「楽しい体験ができる」の3点を設定。ミツカンが若者の心の健康を応援する会社であることや、商品によって楽しい食習慣が持続する印象を与えようと試みたのだ。
この三つの要素を含んだUGCを生むために、手順2として同社は「UGCを生むための店舗設計」を実施。1回目の凹メシ食堂では「凹みエピソードを書くとオリジナル鍋が食べられる」というシンプルな体験設計だった。しかし2回目では、来場者が凹みエピソードを書いたボードをスタッフに渡すことで、そうめんのイラストが描いてある台紙が受け取れその台紙を持っていくつかのゲームに挑戦できる設計に。そしてゲームを一つクリアするごとにスコアに応じて具材が獲得でき、オリジナルそうめんができあがる形に変更した。
この設計は「楽しい」かつ「自分だけのオリジナル」であるのがポイントだと林氏。「他の人と被らないコンテンツを撮れることがUGCの投稿を促す際には重要である」と語る。
三つのキーメッセージを自然と含んだ動画になるように店内を設計
さらに同社では、ユーザーの投稿した動画が三つのキーメッセージを含むものになるよう店内の動線を設計。同社にとって理想のUGCが生み出されやすい環境を整備した。
「TikTokに投稿する際、多くの人が動画の構成や順番を考えると思います。凹メシ食堂では、入店から退店までの流れに沿って撮影を行うだけで一つの動画がでるように店内を設計。この流れ通りに撮ってもらえれば、ミツカンの込めたメッセージも自然と入り込む仕組みになっています」(林氏)
手順3の告知・集客では、数名のTikTokクリエイターに依頼し、広告運用を実施した。しかし、同施策目的は「来場者数を増やすこと」ではなく「TikTokで盛り上がること」。そのためあくまでもオーガニック投稿の“火付け”の役割に絞って広告運用を実施。これにより少額の広告費で今回の成果につながったと林氏は語る。
林氏は同施策を振り返り、Z世代に届く施策設計に必要な考え方を次のように述べ、セッションを締めくくった。
「Z世代と向き合う時には、商品説明だけでなく企業が持つパッションを感じてもらうことが重要です。それを実現するための取り組みとして、社内のメンバーが積極的に前面に出てコミュニケーションを取ることがこれから求められるようになっていくでしょう」(林氏)