広告費を不正に搾取する「アドフラウド」
まず、加隈氏は講演の冒頭でアドフラウドの定義について説明。アドフラウドは、英語で略さずに表記すると「Advertisement Fraud」、つまり「広告詐欺」を意味する。不正な手法により広告のインプレッション、クリック、コンバージョンの数を水増しすることで、広告報酬を搾取する不正行為のことだ。
「アドフラウドは世界的に問題となっており、直近の調査では日本国内だけでも被害総額は1,600億円以上にのぼると言われています。当社の調べによると、業種・業界問わず、全体の広告費のうち平均で4.9%の被害が発生していることがわかっています」(加隈氏)
盗み出された広告予算はブラックマーケットに流れ込んでいると加隈氏。アドフラウドが年々増加している理由には「労力とリスクが低い割に稼げる」という背景があり、日本では「クリック代行」という名の闇バイトが横行。たとえば競合会社などが代行業者に委託し、実行役のアルバイトは1秒間に70以上のアクセスという異常な数字を叩き出すのだという。「相手企業の広告予算を溶かし、妨害させることが目的」と話す。
クリック代行の実行者は、約100台のスマートフォンを活用し、それぞれに自動でクリックできるアプリを導入。1日中クリックを繰り返すことで収入を得ているという。
アドフラウドが「0%」はあり得ない
加隈氏はアドフラウドの被害が甚大なのは、エンタメ業界、通信業界、不動産業界だと話す。これらの業界では「出稿額が大きい」「出稿媒体が多い」「CPCが高い」という3つの共通項があるため、標的にされやすいという。
ただ、加隈氏はこれらの業界に属していなくても、「アドフラウドが0%はあり得ない」と強調する。
アドフラウドのカテゴリーには、一般的な無効トラフィックとして、クローラー、クラウドサーバーからのアクセス、あるいは検索エンジンのプログラムなど無効なユーザーエージェントによるアクセスがある。これらのアクセスは悪意こそないものの、必ず発生するという。
「一方で、Bot、なりすましドメイン、繰り返されるクリック、無効なIP、偽装されたユーザーエージェント、ジオマスキングなど、悪意あるトラフィックもあります。これらには特に注意しなければならないのです」(加隈氏)
ここまで加隈氏の説明から、「うちはディスプレイ広告をしていないから大丈夫」と思った読者もいることだろう。しかし、加隈氏によると、アドフラウドの発生率のうち約40%がGoogleの検索広告、約15%がYahoo!の検索広告だという。
加隈氏はアドフラウドの実害について以下のように説明する。
「見込み客以外の広告表示・クリック、CVで広告予算の消化や機会損失が発生するため、まずパフォーマンスが悪化します。次に、改善施策の実施時にアドフラウドが発生すると本来の効果が計測できず、誤った判断で施策を評価、改悪してしまう危険性もあります。つまり、お金と時間の無駄が発生してしまうんです」(加隈氏)