「5segs」で考える5つの戦略
MZ:自社プロダクトの対象顧客であれば、この5層の上位3層に属しているわけですね。
西口:はい。MarkeZineのようなWeb媒体なら、ロイヤル顧客を「週に3回以上来訪する人」、一般顧客を「月に1回以上~週に3回未満来訪する人」、離反顧客を「1ヵ月以上来訪していない人」などと定義し、ネット調査などを利用すればおよその分布がわかります。また、吉永さんがファミレスAの顧客だとして、毎週のように利用しているなら、ファミレスAにとってのロイヤル顧客といえますね。
多くのプロダクトは「知らない」人や「買ったことがない」人が多いため、こうしたピラミッド型に表しています。別名「顧客ピラミッド」とも呼んでいます。

MZ:仮に、私がまだ別のファミレスBの存在を知らなかったとして、広告などで知ったら「未認知顧客」から「認知・未利用顧客」に移るわけですね。そして初回来店したら、いったんは「一般顧客」になる、ということでしょうか。
西口:その通りです。するとファミレスBは、リピートしてもらうためポイントが貯まるアプリ会員になっていただこうとするかもしれませんし、販促クーポンなどを手渡すかもしれません。もし1回きりの来店で足が遠のき離反顧客となったら、復帰してもらおうと様々な販促活動を実地します。
マーケティングの戦略は、5segs上で考えると次の5つに集約されます。マーケターは、今検討すべきことや実践している施策が「顧客にどこからどこへ動いてもらおうとしているのか」をよく考えて、戦略立案や効果検証をする必要があります。
- ロイヤル顧客のスーパーロイヤル化
- 一般顧客のロイヤル化
- 離反顧客の復帰
- 認知・未購入顧客の顧客化
- 未認知顧客の顧客化
顧客が動く理由は、心理が変化するから
MZ:なるほど。このように視覚化すると、企業としてはピラミッドの上へ、上へと動いてもらいたいことが実感できます。
西口:そうですね。当然ですが、現在の売り上げおよび利益は上の2層(ロイヤル顧客・一般顧客)の方々からしかいただけませんし、離反顧客からは売り上げも利益もいただけません。一方で、認知・未購入や未認知の層を顧客化するには、プロダクトの便益と独自性を認知していただくために、多くの工夫や費用が必要になります。
理想は、この5つの顧客層全員にロイヤル顧客になっていただきたいのですが、購入するという行動にはプロダクトに対する顧客の「心理変化」が必要なのです。5segsで見える顧客行動の変化の裏には、必ずそれぞれの心理変化があります。
MZ:今日、新しいブランドを知って「いいな」と思い買ったら新規顧客になるわけですが、そこには、プロダクトの何かが「いいな、だから買おう」という心の動きがあるのですね。その何か「いいな」と感じたものが、その顧客にとっての便益と独自性なのですね。
西口:はい、そうですね。この心の動きの例として以下の図を見ていだきたいのですが、これは経営層向けの書籍『顧客起点の経営』(日経BP)で紹介した、「歯磨き粉Xを使う顧客3人の昨日・今日・明日」の話です。

西口:ある顧客Aさんは、Xを何となく使い続けており、競合商品を使ったことはありません。Xで特に問題もないので、今後も使い続けようと考えています。Bさんは同じくXを使っていますが、以前は競合商品を使用しており、両者に特に差異を感じていません。すると、新たなZという競合商品が発売されており、これを買ったためXからは離反し「このままZでいい」と考えました。
そしてCさんもXを使用しているものの、単に家族で共用しているという理由だけで、やはり競合商品との差異は見出せていません。子供が新商品Zを買ってきたので、Xからはいったん離反しましたが、「Zは気に入らない」と感じました。こんな風に一人ひとりを見ると、顧客の気持ちは日々変わっているのです。
MZ:BさんとCさんに復帰してもらうためには、それぞれの心理や状況を理解する必要がありそうです。
西口:そうですね。単純に「顧客が3人から1人に減った」と数字だけでとらえるのではなく、顧客の変化する心理に向き合っていかないと、アプローチすべき潜在顧客を見つけられず、取るべき施策もわかりません。
N1インタビューをすればこうした実際の話を得ることができますし、自分が顧客の立場でどのような心理変化があって購入行動が変わったか考えるのも、学びになります。気持ちが変わるから、顧客は動くということを忘れないようにしましょう。
西口氏のマーケティング入門連載【第20回】はこちら!
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