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第107号(2024年11月号)
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MarkeZine Day 2024 Focus(AD)

ドンキが見出したメーカーとの新たな関係性、サントリーとコラボ施策「ドつまみ総選挙」を実施した理由

 小売業界において35期連続で増収を続けるドン・キホーテ。同社では、近年、メーカー企業とのコラボレーション(以下、コラボ)販促企画に注力している。2024年11月にはサントリーとのコラボ企画「ドつまみ総選挙」を行い、話題となった。今回のMarkeZine Day 2024 Focusでは同コラボの推進役となったPPIHグループのカイバラボの小林氏と、その支援を行ったNODEの石田氏が登壇。ドン・キホーテがメーカーとのコラボに注力する理由や、コラボに取り組む際の重要なポイントなどを解説した。

ドン・キホーテが抱えていた「三つの課題」

 近年では小売業界が持つ固有の課題を打破する試みとして、企業同士のコラボに注目が集まっている。MarkeZine Day Focus 2024には、NODEのマーケティング&セールス統括を務める石田直行氏と、カイバラボでデータコラボレーション部の部長 兼 データ事業推進部の部長を務める小林真美氏が登壇した。

 NODEは、マーケティングおよびCX領域を支援するコンサルティングファンド。クリエイティビティとロジックをかけ合わせてクライアントの施策改善を支援している。一方カイバラボは、ドン・キホーテやユニーを擁するグループのデータ・デジタル領域の専門子会社。“小売の未来”をつくることをミッションに、実証実験の推進や外部とのコラボの推進、リテールメディア・データ事業の運営を行っている。今回のコラボにおいても、中立的なポジションでPMO(Project Management Office)の役割を担っているという。

 セッション冒頭で小林氏は、ドン・キホーテがメーカー企業とのコラボを積極的に推進する理由を解説。まず、背景にあった三つの課題を挙げた。

株式会社カイバラボ データコラボレーション部 部長 兼 データ事業推進部 部長 株式会社pHmedia 取締役CDO
小林 真美氏

 一つ目が「購買体験の変化への対応」だ。近年、購買行動の多くがデジタルにシフトしたことで、これまで消費者が店内で行っていた商品の認知や比較などはネット上で済ませることが当たり前となった。しかし、同社では自社のECを保有していない。そのため、ユーザーが来店する前に「いかに商品と出会ってもらうか」を考える必要があったのだ。

 二つ目が「消費者ニーズの多様化」だ。これまで同社では、「商品選定の目利き力」を活かしてアミューズメント性の高い商品を仕入れてきた。しかし近年では、多様化する消費者ニーズへの対応として、プライベートブランド(以下、PB)やOEM商品を取りそろえるように。そのため、仕入れだけではなく商品開発力強化の必要が生まれた

 そして三つ目が「競合優位性の担保」だ。PBの開発やリテールメディアなど新たな取り組みを積極的に進める同社だが、当然、競合他社も多様な事業に取り組んでいる。このような状況下で、従来のメーカーとの関係性のままで事業を進めているだけでは、競合優位性を保てないという危機感があった

消費者理解に有効なパートナーシップの構築

 ドン・キホーテは「顧客にとって最も都合の良いお店であり続ける」をスローガンに掲げている。先述の三つの課題の解決策になり、このスローガンの実現にも近づく方法こそが、メーカーとのパートナーシップの構築だと小林氏は語る。

「消費者のニーズに応え続けるためには、消費者理解が必須です。それはメーカー様にとっても同様でしょう。そのため、当社が有するデジタルとリアル店舗両方での消費者との直接接点、そしてそこから得られる購買履歴などの消費者データをメーカー様とともに活用しながら、商品開発や買い場づくり、広告販促活動を実現していく必要があると考えています」(小林氏)

 だが、各事業者としてはコラボを通じたより深いパートナーシップに際して懸念もあるだろう。石田氏が小売とメーカーがコラボを進めていく上での難易度の高さを指摘すると、ドン・キホーテでもコラボを推進していく上で次の三つの障壁に直面したと小林氏は語った。

  1. 「仕入れと販売」という従来の関係性から脱却できない
  2. 小売側・メーカー側ともに、組織横断でのプロジェクト推進が必要になる
  3. 新たな取り組みに向けた十分な稼働工数やコストを有していない

 では、これらの障壁に対して、同社ではどのように対処したのだろうか。

小売とメーカーがコラボを成功させるには?

 ここで小林氏が「企業コラボの推進を成功させるポイント」として紹介したのが、次の五つだ。

  1. 日々の実商談をしている組織と別組織がPMOを行う。そしてこのPMOが社内も社外もつなぐ
  2. 両社間で事業を連携するにともなう長期的なビジョンを共有する
  3. 両社で顧客データを共有し、お互いに同じデータを見ながらコラボを推進する
  4. 双方がWin-Winとなる取り組みを目指す
  5. 他小売・他メーカーとの取り組みにも展開できる、双方にとって拡張性のあるものにする

 一見すると、一つ目の「別組織をPMOとして設置すること」が最初のハードルになりそうだ。石田氏がなぜこのような体制を取るのか尋ねると、小林氏は次のように、その重要性の高さを説く。

株式会社NODE マーケティング&セールス統括 石田 直行氏

「日常業務を行う組織と別の組織がPMOを務めることで、日常では仕入元・クライアントという関係性であるメーカー・小売りにおける“共創”が成り立ちます。つまり、同じ目線で同じターゲットである「消費者」をみて、同じ目的の実現にむけて方向性を合わせられるということです。そのため、コラボを推進する上でこの仕組みづくりは最重要だと考えています」(小林氏)

「ドつまみ総選挙」で実現したフルファネルでの訴求

 セッションではここから、具体例を基にコラボ成功の秘訣に迫った。紹介されたのは、2024年11月にドン・キホーテとサントリーのコラボにより開始したキャンペーン「ドつまみ総選挙」。同キャンペーンは、ドン・キホーテ店内で展開するサントリーのお酒におつまみとして一番合うドン・キホーテのPB商品を、インターネットを通じた一般投票で決定するというコラボ企画だ。

 同コラボ施策は、PPIHグループのリテールメディアや「majicaアプリ」などのデジタルでの展開に加えて、店頭陳列用の選挙ポスターボードの設置や全国約500店舗でお酒とおつまみのコーナーを隣り合わせに並べ替えるなど、リアルでの接点も創出。オン/オフを横断したフルファネルでの訴求を推進した事例となった。

 同企画に対して小林氏は次のように述べる。

「『ドつまみ総選挙』は一見、ただの販促キャンペーンに見えるかもしれません。しかし実際は、ドン・キホーテのマーケティング部、MDチーム、PBチーム、営業チーム、店舗など、あらゆる部署を巻き込み、文字通り“全社総出”で取り組んだコラボキャンペーンでした。そこまで行うことで初めて、同キャンペーンをオンラインで知ったお客様の『認知』を、最終的な店舗での『購入』にまで促すルートの確立ができると考えています」(小林氏)

 ただ、こうした全社を巻き込んだフルファネルでの訴求は、通常のキャンペーン施策や販促活動では中々実現が難しい。企業コラボだからこそ成し得たのだと小林氏は強調した。

 石田氏も先述の成功のポイントに沿って企業コラボとしての成功要因を分析する。

「当社とカイバラボ様が中心になって推進した本施策では、若年層による飲酒文化の創造を大きなビジョンとして設定しました。これがコラボした両社にとってコラボの意義を共有できるものになり、結果的に連携を強められたと考えています。また、その実現のために、ドン・キホーテ様が持つ購買データをサントリー様と共有して確認しつつ、両社が持つ強みを活かしながら戦略・戦術を構築していったことも本施策の成功の要因ですね」(石田氏)

 今回の結果を踏まえて、両社は今後、どのようにコラボの取り組みを推進していく予定なのだろうか。

目指すは小売×メーカー×消費者の「Win-Win-Win」の関係

 今後の取り組みとして肝になるのが、PPIHグループが持つ「若年層」と「インバウンド」に対する販売力の強さだと小林氏。これら二つの強みを軸に、多岐にわたるデータを収集・共有し、メーカーとの企業コラボを推進していく予定なのだという。

 そして、このメーカー企業とのコラボの推進は、最終的に小売とメーカー、消費者の間での「Win-Win-Winループ」構築につながっていくのだと小林氏は語る。

PPIH×メーカーのコラボで創出されるWin-Win-Winのループ

 「メーカー企業様は、PPIHグループのデータと買い場の活用をすることで、確度の高いお客様に効果的かつ効率的な情報提供が行えるようになります。すると、お客様は『役立つ情報』だけが見られるようになる。結果的にそれが来店客数をさらに増加させ、商品の売上増加につながります。

 また、売上が増加すれば、今度はより多くの購買データやお客様の声が収集できるようになるため、メーカー企業様は、ニーズを反映したより良い商品づくりが可能に。そして、より良い商品が展開できれば独自性のある店づくりができるので、お客様に来店してもらいやすくなり、またデータが貯まるというサイクルが構築できるんです」(小林氏)

 この「Win-Win-Winループ」を構築できることこそが企業コラボの醍醐味であると小林氏は語った。

企業間でのコラボを検討する際に抑えるべき二つのポイント

 最後に石田氏が、小売とメーカーがコラボを検討する際に抑えるべき二つのポイントを説明した。

 一つ目は、「小売とメーカー共同でのCRM推進」だ。これは、両社でデータを共有するという話にも通ずるが、小売が持つID-POSのデータを活用してコラボ相手と顧客分析を実施、それに基づいて協働で施策を推進するということだ。その際に、結果のデータも両社が一緒に見ることで「リピートさせやすい顧客の属性」や、「効果的・効率的施策」「顧客の定着には必要な要素」などについて、PDCAを回しながら検証していくことでより高い精度でコラボ施策を行うことができるのだという。

 二つ目は、「ROR(Return on Relationship)の意識」だ。RORは、近年、米国市場で言及されるようになった「データ活用について小売が取るべき姿勢」のこと。データを持つ小売とそれを使いたいメーカーの双方にとって、目先の施策結果にとどまらずに両者の関係そのものの価値を高めることが最重要であるという考え方なのだという。リテールメディアなどの小売側のデータを活用するとなると、短期的な売上増加に意識が行ってしまう企業も少なくないが、短期的な売上への貢献以上に、より中長期的な視点で企業同士が良好な関係を築くことがコラボを行う上で重要だと石田氏は語った。

 これらを意識することで、継続的に小売とメーカーにとってWin-Winな成長基盤が構築できる上に、双方にとってより良い成果につながるビジネスが実現できるようになると、石田氏はセッションを締めくくった。

企業同士の共創を前進させるCXコンサルティングファーム

 NODEでは、企業間コラボレーションの推進や顧客起点でのサービス変革などを中心にCXコンサルティングサービスを展開しています。戦略方針の策定から具体的な施策の実行や改善まで様々なご相談に対応しておりますので、本記事でご興味を持たれた方は、お気軽にお問い合わせください。

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この記事の著者

三ツ石 健太郎(ミツイシ ケンタロウ)

早稲田大学政治経済学部を2000年に卒業。印刷会社の営業、世界一周の放浪、編集プロダクション勤務などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。マーケティング・広告・宣伝・販促の専門誌を中心に数多くの執筆をおこなう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社NODE

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2024/12/23 12:00 https://markezine.jp/article/detail/47503