接客に必要な“シグナル” 察知のために基礎課題の解消から着手
岩井: UAではお客様の入店に応じてすぐに「これいかがですか、こちらはどうでしょう」とお声がけすることはまずありません。私自身も店舗研修で学んだのですが、お声がけが必要かどうかを判断するために、その“シグナル”となるお客様の行動を見る必要があります。たとえば商品の値札をお客様がわざわざ見ているということは、ご自身のなかで審議して何らかの結論が出た状態と言えます。このようなシグナルをどのように取っていくかが大切なのです。
今回のアプリリニューアルでは、お客様のデジタル行動によってお客様理解を深めると共に、アプリを通じて店舗におけるお客様行動も把握し、店舗での接客を向上させていく狙いがあります。
━━これまでにはどのようなリニューアルが行われてきたのでしょうか。
佐々木:以前のアプリはWebビュー主体だったため表示速度に課題がありました。そこでネイティブアプリ化によって速度向上を目指したのです。ただし全機能を一気にネイティブ化するのは難しかったので、最初に行った6月のリリースでは商品一覧機能や店内商品のバーコード読み取り機能などの一部機能からネイティブ化を進めました。
10月はUIを大幅に刷新しました。かつてはフッターメニューが5つ、ヘッダーメニューが4つあったのですが、フッターを3メニュー、ヘッダーを2メニューとシンプルにし、使い勝手を向上しました。一例を挙げると、UAクラブのマイル貯金やクーポンを貯める会員証機能を上部に移動させて直感的な操作性を実現しています。
また、従来は商品やスタッフだけに有効だった「お気に入り機能」を拡張し、ストアブランドとスタイリングもお気に入り登録できるようにしました。これにより検索時のブランド指定が容易になったほか、自身のスタイリングや着回しにも役立てられます。
課題は「お客様の自然な購買行動」に対応できていないということ
━━今回のリニューアルはどのような経緯で行われたのでしょうか。
佐々木:実は2年前にECとアプリをリニューアルした際、お客様から「表示速度が遅い」というお声をいただいていたのです。アプリの使いやすさを改善すれば売上が向上することはわかっていたので、今回のリニューアルを決めました。
なぜアプリを改善すれば売上が上がるのかといえば、今まで店舗で購入していたお客様は、会員ではないケースが多く見られました。しかし、そのお客様がアプリを利用すると、会員登録する割合が高くなります。会員登録すると、その分年間購買額が増える傾向があります。また、アプリを利用しているお客様は、ECや店舗を問わず、年間の購買金額が高いという傾向も見られました。
もう一つリニューアルのきっかけを追加すると、先ほど岩井が説明したように、お客様理解をより深めたいという思いもありました。以前は当社の会員証もプラスチックのカードだったのですが、その場合は購入しない限り店内で提示されることはないので、「購買しないけれど来店したお客様」を認識することはできません。店頭でのお客様行動が抜け落ちてしまうのです。具体的なことは次回のリニューアルに関わるのですが、店頭でアプリを利用していただくことで、お客様のことをより深く理解できるようになります。初めて来店された方には将来の顧客になっていただき、既存のお客様にはリピーターやファンになっていただけるような仕組みを実装したいと考えました。
岩井:そもそものOMOの課題なのですが、実は企業側は購買者の実態を把握できていないという現実があります。佐々木の話にあったように、お客様が店舗に入った途端にデータが取れなくなり、逆にお客様が外にいる時にデータが取れるというのは、よく考えるとおかしいですよね。それはつまり「お客様の自然な購買行動」に私たちが対応できていないということです。
もう一つあります。それは、お客様接点においてアプリの存在がこれからも大きくなっていくことが考えられるからです。そうすると問題になるのはスピードです。たとえば店頭でアプリをインストールしていただき、お客様情報を入力いただく時に反応が遅ければ顧客体験を大きく損ないます。スピードをいかに改善するかという点も大きな取り組みでした。