どの媒体、どの層でも自分ごと化 横断型UGC施策の適所適材を徹底
━━今回の場合、具体的にはどのような提案を行ったのでしょうか。

戦略PR会社を経て電通PRコンサルティングでインフルエンサーマーケティング事業の子会社立ち上げに従事。2019年にウィングリットを創業し、戦略プランニングに基づいたインフルエンサーマーケティング支援を提供する
安藤:当社が参画する以前にできていなかった、UGC領域における媒体・人選・訴求などの戦略設計やPDCAを回すこと、“局所最適化”の課題を解消することを念頭に提案を行いました。
加えて、美容商材は生活者の情報感度によって情報の取得の仕方・場所が異なります。複数SNSを横断的に活用しながらも、それぞれの媒体で異なる設計が重要ですので、それを踏まえた設計や提案を行いました。
まず、若年層へのアプローチを課題に感じていらっしゃったこともあり、TikTokを重要な媒体と位置づけ、Z世代に人気の高いクリエイターを起用しました。「良質ながらコスパが良いこと」「クリエイター自身が伝える使用実感」の発信によって、若者が「自分たち向け」と思える理由を醸成しました。

Instagramについては、2種類の役割を設定しました。一つはTikTok と近く、Z世代に人気のインフルエンサーに使ってもらい、使用実感を発信してもらうこと。もう一つは、美容レビューを得意とするインフルエンサーによる詳細な商品レビューの投稿です。これは「ブランド広告を見た後に製品について検索する人」への対策として機能させる意図がありました。

一方、YouTubeは長尺のフォーマットが製品の成分解析など詳しい特徴をじっくり伝えることに適しているため、“美容高感度層”への発信を前提に、成分解析を得意とするクリエイターを起用しています。
このようにして、どのプラットフォームでも「自分向けのシャンプー」という認識を持ってもらえる状態を目指しました。
矢野:ウィングリットさんには、UGC領域の勝ちパターンやビューティー商材に関する豊富な知見を基に、具体的な戦略を提案していただけました。戦略立案から進行管理、検証まで一気通貫で担当していただいたことも印象的でしたね。
パートナーとして協働をしていて強く感じたのは、UGC領域では投稿の質にやはり発信者の熱量が非常に重要であること、それを可能にするキャスティング力をお持ちであることです。日頃からインフルエンサーときめ細やかにコミュニケーションを取っているからこそ、質の良い投稿につながっていると感じます。
安藤:ヘアケア商材、特にシャンプーはインフルエンサーからすると「紹介しづらい」と捉えられることも多いのですが、私たちは日頃から、耳を傾けてもらえる関係値を作っていたり、インフルエンサーの普段の発信内容を踏まえてコンテンツの内容をディスカッションすることで、熱のこもったコンテンツができるように心がけています。
━━全体戦略との兼ね合い、PGCとの連動ではどのような点を意識されていましたか?
梅ヶ谷:花王の事業部内に所属しているからこそ把握できる情報を適切に共有しながら、より良いアウトプットを生み出せるようなコミュニケーションを意識していました。特にPGCに関して発信を強化する時期には、UGCでも関連する要素を盛り込むことを提案したり、過去の事例から効果的な切り口をお伝えしたりしています。そのようなインプットから、各社がアイデアをより膨らませてくださり、より良いアウトプットが出せているのかなと思います。
Xでの発話量は前年比約60倍 一過性で終わらない展開も実現
━━今回の施策により、どのような成果が得られたのでしょうか。

矢野:定量的な成果として、リブランディング後の4~5月の売上が約1.2倍に伸長し、最も重視していた10代~20代のブランドシェアで1位を獲得できました。SNSでの反響も大きく、Xでの発話は4月単月で前年比の約60倍、Instagramでも前年比の約4倍となりました。定性面では、「実家にあるシャンプー」というイメージから脱却し、若年層からも「エッセンシャルのイメージが変わった。シャンプー買いに行く」という声が多く聞かれました。
さらに大きいのは、この効果が一時的なものではなく、それ以降もシェアを維持できている点です。これは、ウィングリットさんに発売期だけではなく、継続的に発信されるように時期に応じた戦略を考えていただいた成果だと考えています。たとえば、ローンチ当初の春は新製品への期待感と美容系インフルエンサーの声を中心に、夏場は実際のユーザーニーズや悩みに寄り添った検証的な投稿を展開するなど、長期的な視点でのプランニングが数字にもきちんと反映されています。
安藤:おっしゃる通り、季節や時期も踏まえたプランニングも重要です。美容商材の場合、生活者は季節や時期に応じて悩みが異なる場合が多いため、商品のUSPや伝えたいメッセージも踏まえ、実施タイミングに適したプランニングが必要です。また、1つのブランドの中で商品が複数ある場合、商品ごとで最適な時期や訴求内容も変わってきます。そのため、1つのブランドのUGC施策と言えど、年間を通じて個々の商品ごとに合わせた立体的なプランニングが必要です。今回の体制ではそこも含め当社にお任せいただけたため、最大限貢献できたのではないかと感じています。