9割が新規顧客、敏感肌市場を劇的に伸長させた『RECiPEO』の事例
MZ:続いて、直近ヒットしたPBの事例をもとに、顧客のインサイトを捉える方法を探りたいと思います。具体的な商品開発の事例を紹介いただけますか。
櫻井:たとえば、コーセー様とマツキヨココカラの統合記念として一緒に開発した敏感肌化粧品の独立型ブランド「RECiPEO(レシピオ)」は好事例の1つです。美白化粧品やエイジングケア化粧品はどのような方が買いやすそうかという、ターゲットがわかりやすいですが、敏感肌化粧品は肌の特徴で選ぶものなので、年代や性別は分散していてデモグラでは特徴を掴みにくくなっています。
そのため、敏感肌市場のシェアを占めているNBのAとBという商品があったときに、通常のデモグラで分析するとAもBも年代や性別の構成比に違いが出ないのです。
そこで、お客様を分析する「価値観」というセグメントが必要になります。商品DNAには価値観軸の情報も付与されているため価値観軸の分析ができ、AとBの商品では捉えられていないお客様が発見できます。そのお客様に喜んでもらえる商品をコーセー様と一緒に開発したのです。
価値観軸の分析から見えたインサイトをもとに「RECiPEO」の商品を発売した結果、発売から4ヵ月後の時点で、A商品からスイッチした方は3.2%、B商品からスイッチした方は2.8%しかいないことがわかりました。既存のNBと競合することなく、約9割の新規流入顧客を獲得し、結果的にこの敏感肌カテゴリーの数字は劇的に伸長したのです。
購買データ分析×定性リサーチで成功した男性化粧品「KNOWLEDGE」
櫻井:もう1つ事例を挙げるなら、マンダム様と共同開発し2024年4月に発売してヒットとなったメンズスキンケア・ヘアケアのPB「KNOWLEDGE(ナレッジ)」があります。

マンダム様には男性向けスキンケア・ヘアケアブランドに「GATSBY(ギャツビー)」と「LUCIDO(ルシード)」があります。その2ブランドとカニバらず、その2ブランドでリーチできていないお客様をしっかり捉えることが命題でした。
KNOWLEDGEを開発する際も、RECiPEOのときと同様に価値観軸でお客様を分析したのですが、RECiPEOとは異なる手法を採用しました。まず、男性化粧品の各ブランドごとに価値観とお客様を全て分析し、価値観軸の客数構成比によってAからIまで分けたのです。
そして、たとえば「AとBのブランドは、価値観の近いお客様が購入している」などと、ブランドの距離感を計測しました。ブランド同士の近さもわかるので、GATSBYとLUCIDOから離れている価値観で、今までマンダム様商品で捉えられていないお客様に向けて新商品を開発することで、新しいお客様を取り込もうと決めました。
データをもとにターゲットを導き出したあと、ターゲットに近しい価値観を持つお客様をお呼びしてワークショップを開催しました。ワークショップでは、男性化粧品に対する考え方や身だしなみについて調査し、インサイトを抽出しました。
購買データからではわかりにくいインサイトの部分は、お客様の声を吸い上げるワークショップやデプスインタビューといったリサーチ手法が役に立ちます。
その中から「一瞬の100%よりいつも80%以上でいたい」や、「余裕を持つのがかっこいい」などのインサイトが抽出できました。そのような方は、デートの時だけ飛び切りにかっこいいのでなく、常にある程度のかっこ良さを維持したい方で、遊び心を持っていたい方でした。そのようなインサイトを商品やパッケージデザインに活かしていったのです。
その結果、「KNOWLEDGE」購入者のうちLUCIDOのヘアケアからのスイッチは0.6%、GATSBYのスキンケアからのスイッチは2.7%となり、こちらも9割近くの新規購入者を得て、男性化粧品カテゴリーの売上も一気に伸びました。
