歩留まり約90%を達成した、イベントのカスタマージャーニー設計
講演では成功事例として、歩留まり89.2%を達成したプライべートカンファレンスの取り組みが紹介された。無料のイベントだったにも関わらず、高い歩留まりや営業からの高評価を達成できた理由は何だろうか。
その理由の一つには、JTBではイベント内のジャーニーを綿密に設計している点がある。対面イベントの成功には、営業をはじめとした関係部署との連携が不可欠のため、イベントの狙いについて社内で共通理解を形成することが大事だ。ジャーニー設計をもとに認識をあわせることで、「営業と連携しながら対面イベントでお客様と向き合うことで、成果が出ている」と前澤氏。
「対面イベントを、お客様を次のステージに次のフェーズに動かす大きな武器としてフルに活用することで、商談に繋げたり、案件や取引の需要発生につながります」(前澤氏)

カンファレンスの構成としては、基調講演で「情報収集」のニーズを満たしつつ、「案件創出」や「クロスセル・アップセルに繋げる」ためのラウンドテーブルやワークショップを企画。非公開のシークレットセッションとして、数名の顧客とエンゲージメントを高めるような企画も用意した。目的に応じた企画を用意するだけでなく、お酒や食事による交流促進も実施した。
興味深い点として、セッションでは「JTBのサービスを売るな」というルールを設けているという。あくまでも参加者が知る、興味を持つ、深く知りたいという状態を作ってから、詳細の説明をする流れが重要なのだ。
エンゲージメント醸成に必要な3つニーズ
JTBでは、イベント参加者のエンゲージメントを高めるために、「フィジカル」「ビジネス」「エモーショナル」という3つのニーズを提示している。

フィジカルとは多言語対応や場所のこと。
ビジネスとは、参加者のビジネスニーズとなるが、どのように満たすのか。前澤氏によると、顧客が関心を示すような基調講演、体験型ワークショップなどのプログラムの設計に加えて、「JTBとお客様との関係性に応じた過ごし方の提案」にも取り組んでいるという。
エモーショナルニーズは最も重視しているニーズで、「イベント自体を楽しんでいただく工夫を色々と凝らしている」と前澤氏。その理由について、「それを通じて得られるポジティブな記憶が、行動変容に大きく影響する」と説明した。
ここまで紹介したJTBのイベント設計で重要な土台となっているのが「行動経済学」だ。取り入れることで、「参加者のインサイトに沿った効果的な結果につながる」と堺氏は語る。
行動経済学に基づきイベントを成功に導く5つのポイント
(1)MCをショーアップ
(2)製品説明をしない
(3)物足りないぐらいで終わる
(4)ポジティブ・アフェクト(気分よく感じる感情)を意識
(5)情報オーバーロードを避ける
「(2)製品説明をしない」理由が気になる読者も多いのではないか。この理由について、前澤氏は、脳の思考様式を取り上げて説明。「システム1(直感的・感覚的思考)」と「システム2(論理的・分析的思考)」の2つを切り返しながら人間は生活しているが、イベントではシステム1の頭が疲れない状態で体験してもらうことが行動経済学的には大事だという。
「システム1から突然システム2に切り替えて疲れさせてネガティブな印象を持たせてしまったり、疲れきってしまうことを避けるためには、製品の説明をするよりも、視覚的にわかりやすいポスターなどの情報を見せるのがいいでしょう。もちろん製品の説明を聞きたい気持ちに参加者がなっている場合はそうしますが、いきなり説明を強要するようなことは効果的ではありません」(前澤氏)