「物足りない」気持ちが商談化率を向上させる
行動経済学に基づく5つの工夫ポイントのうち、「(3)物足りないぐらいで終わる」とはどういうことだろうか。
前澤氏はポジティブ・アフェクトにからめて、「物足りないの逆は過剰。もういらない状態はネガティブに触れてしまう。もっと知りたい、興味深いというポジティブ・アフェクトを感じてイベントを終えてもらう」と狙いを話す。物足りないという気持ちにより、商談化率などが向上するという効果もあるそうだ。

マーケティングチーム マネージャー 前澤美保氏(2025年3月現在)
類似しているのが、「(5)情報オーバーロードを避ける」だ。情報が多すぎると思考停止の状態を招き、「逆に選択をしにくくなることがある」と前澤氏。イベントでは色々な情報をあえて一気に入れない工夫をしているという。
このような工夫を通して、JTBは行動経済学を活用して顧客のエンゲージを強めている。時にこの理論は、「プレゼンでの商品説明が短かったのではないか」といった指摘が社内から入ったときにも役に立つという。
先に触れた歩留まり約90%のプライベートカンファレンスでも、この行動学的なポイントを取り入れていた。具体的には、「(4)ポジティブ・アフェクト」の点では、受付の両側にスピーカーをセットしてDJスペースを設け、音量を上げてノリの良い音楽を流したという。「いつものイベントと違う」という印象を創出し、ビートと共にテンションが上がるという効果を狙った。またMCに元芸人を招き、セッション前に盛り上げてもらったり、パブリックスピーキングの技術を取り入れたりして、参加者に強い印象を与える工夫を各所に散りばめた。
イベント設計における3つの落とし穴
最後に、堺氏と前澤氏はイベント設計においてよくある3つの落とし穴を例にあげながら、本セッションのポイントをまとめた。
最初の落とし穴は「購買意欲の源泉」について。「顧客の課題を解決する」とよく言われるが、「これは違うのではないか」と堺氏。それよりも「心が動いた時」に購買に向けた行動をとる、と考えているという。そのためには心を動かすことが重要であり、それをイベントで狙う。
次は対面イベントの考え方として「良いイベントを作る」こと。参加者の快適性を追求したり良いコンテンツを作ることよりも、「エモーショナルな変化を起こす」ことが大切だ。そのために、ポジティブ・アフェクト、熱量の伝播、イベント後に参加者が周囲にインフルエンスするなどの行動変容を起こすことを目指すべきという。
最後に挙げた落とし穴は、「スピーカーの考え方」。一方的に話すだけならば、参加者はウェビナーでも良かったと感じ、ネガティブ・アフェクトを抱きかねない。そこで、双方向で会話をしたり、2人で登壇して登壇者同士が対話しながら参加者と一体となった空間を作るなどの工夫が大切とした。
「良い情報を明確に伝えることを意識しがちだが、足を運んだ理由を作ることを意識すべき。スピーカーのマインドセットが重要になる」と堺氏は締めくくった。