トレンドとインサイトの組み合わせで、打率の高いアイデアを生み出す
事象の背後にはトレンドがあり、生活者のインサイトも隠れている。しかし、それを自社のマーケティング活動にどう活かせばいいのか。トレンドとインサイトから考えるマーケティング活動について、恒藤氏はスイーツの新商品開発を例に解説した。
たとえば「夏季限定ドーナツ」を開発する場合、まずは食品に限らず今注目すべきトレンドを考えていく。一例としては「意味消費」「ご褒美文化」「五感消費」などのトレンドが挙げられるとともに、その背後には「現実逃避」「工夫を楽しむ倹約」「手触り感・素材感」などのインサイトが浮かんでくる。これらのトレンドとインサイトに紐づく要素を掛け合わせた、「とろ~りザクザク 生チーズケーキドーナツ」といったアイデアが考案できる。

このアプローチによるメリットは3つ。1つ目は、トレンドとインサイトを掛け合わせるとアイデアの切り口が浮かびやすくなり、再現性が高まること。2つ目は、アイデアありきの発想ではないため、ターゲットやニーズがブレにくいこと。3つ目は、生活者起点の発想であるため、生活者にとって魅力的な軸で訴求しやすいことだ。実際に「とろ~りザクザク 生チーズケーキドーナツ」に対する生活者調査を行ったところ、定量・定性ともに高い評価を得る結果だったという。
もちろん、すべてのアイデアが必ずしも高い評価を得られるわけではない。しかし、トレンドとインサイトの組み合わせを変えていけば、複数のアイデアを展開していくことが可能だ。平均的に高い評価を得られるアイデア群の中から、より生活者に支持される案を絞っていけるだろう。

1つ目のポイント「トレンドとインサイトをセットで捉える」ことによって、ニーズ起点でブレにくく、再現性の高いアイディエーションを生み出せることがわかった。
カテゴリー起点によるアプローチの課題と、社会トレンド起点の重要性
次に恒藤氏は、2つ目のポイントとして「社会潮流起点で取り組むことで、カテゴリー起点では見つけづらかった大きな流れや新しい切り口が見つかる」ことを解説した。なお、マーケティング活動のアプローチには様々な形があるが、ここでは単純化して「カテゴリー起点」と「社会トレンド起点」の2つのパターンに大別して紹介している。
カテゴリー起点の圧倒的なメリットは、ターゲット設定のしやすさにある。当該カテゴリーユーザーに対する、カスタマージャーニーや購買理由、満足度などの確認によってカテゴリー内の未充足ニーズを起点にできるからだ。
しかし、新規性や発展性のあるアプローチを見つけにくいという難しさもある。各社が同じ領域のニーズを狙い、新商品開発を進めていく中、未充足ニーズは日々解消されていく。飽和した市場で、新しく深いニーズを見つけることは至難の業だ。

一方、社会トレンド起点でのアプローチは幅広い選択肢がある分、ターゲット設定の難易度が高まる点がデメリットだ。ニーズやインサイトを見つけたとしても、自社の施策に落とし込むには発想の飛躍が必要となる。逆に、新規性や発展性の観点ではメリットが大きい。他社が目を付けていないニーズを取り込み、新たな市場を作り出すアプローチが展開できるだろう。
一長一短である「カテゴリー起点」と「社会トレンド起点」のアプローチ。恒藤氏はどちらも重要で、併用することが有効だと述べた。
さらに「社会トレンド起点」のアプローチにおいては、「トレンドは複数のカテゴリーで同時に発生します。冒頭の“ME TIME”の例でも、様々なカテゴリーから併発的に事象が生まれていました。自社カテゴリー内のトレンドを追うだけだと、新しい生活者動向を掴み、先行した手を打つことが難しくなる」と恒藤氏は述べた。
社会トレンドを追いかける際、着目すべき情報源は多岐にわたる。自社の購買動向からSNS動向、コンテンツの評価、意識調査、海外事例などが挙げられるだろう。これらの情報からあぶりだされた「変化の共通項」が、新しいトレンドやインサイトのヒントとなっていくのだ。