営業の自己啓発ダッシュボードを開発
現場からデータを吸い上げる基盤が整ってきたタイミングで、個人単位で営業生産性を上げていく施策に入った。具体的には、Salesforce上に個々人のセルフダッシュボードを設け、自身の活動計画に対する進捗を一目で確認できるようにした。
「これは言うなれば、営業の自己啓発ダッシュボードのようなものです。チームでデータ活用の土壌を作った後、こうして個人に落としていくと、自ら営業活動のリフレクションをしていくようになります」(戸松氏)
こうして個人単位でもデータドリブンなセールスが浸透してくると、より生産性を上げていくための議論が再びチーム単位で起こってくる。すると次は、生産性のさらなる向上を目指した“投資”も議論にあがるようになるという。NTTコミュニケーションズが現在議論しているのは、生成AI導入による営業精度の向上だ。
営業進捗、いわゆる商談フェーズを引き上げる時、その判断を個々人に任せていると、組織単位での管理が整わず、精度がなかなか上がらない。そこで、生成AIによる自動判断を導入しようと議論しているそうだ。また、結果として、商談内容をAIがフィードバックするような機能も試しており、想像以上に社員から好評だという。
顧客理解の解像度を高め、ABMのさらなる発展へ
フェーズ2:顧客理解の解像度を上げるのに必須な「名刺情報」の徹底管理
続いては、「フェーズ2:顧客理解」の施策について。NTTコミュニケーションズの売上構成比はパレートの法則のとおりになっており、トップ100のクライアントから売上の8割が生まれている。ABMのターゲット企業はおよそ4,000社。当然トップ100のクライアント企業と、残り3千数百社の企業とではアプローチの仕方が変わってくる。アカウントベースで戦略を変えるのは、データドリブンマーケティングの一丁目一番地だ。
ただ、これだと企業の“誰と”コミュニケーションをしているのかまでわからない。その企業のキーパーソンや、DMU(Decision Making Unit:意思決定グループ)が誰なのか、誰と商談をできているのか、まで解像度を上げてクリアにする必要がある。
そのために重要になるのが、徹底した名刺情報の管理だ。NTTコミュニケーションズの場合は、CDPを経由して、Salesforceに名刺情報を紐づけているという。
フェーズ2:数千社との関係性が一目でわかるカルテを自動生成
データ活用による顧客理解の現段階の集大成として、戸松氏が紹介したのは「カスタマー・ヘルス・スコアカード」。クライアント企業との関係性をNTTコミュニケーションズの視点で評価し、スコア化する仕組みである。

スコアは、重要KPIである3つのR=Revenue(売上)、Relationship(関係性)、Reputation(評価)と連動している。たとえば、今の売上が良ければ高いスコアになるわけではない。中長期的な新しい取り組みが動いていなければRelationshipで評価されず、結果的にスコアは低くなるという具合だ。
「この仕組みにより、我々がABMとしてターゲティングしている数千社との関係性が一目でわかるカルテを自動生成できるようになりました。各部署の情報環境が統一化されたというのも大きな進化です」(戸松氏)
最後に戸松氏が触れたのは、組織でデータ活用を推進するために必要なマインドセットについて。東京にある神田明神のエピソードを紹介しながら、次のように話した。
「関東大震災で焼失した神田明神の再建を指揮された方は、『二度と火事で焼失するようなことがないように』と、周りの反対を押し切って、伝統的な木材ではなく、コンクリートを採用したそうです。その結果、神田明神は東京大空襲を乗り越え、現存しています。
私は、データ活用もこれと同じだと考えています。データ活用を進めていこうとすると、時には反発や抵抗に合うこともあるかもしれない。でも10年後に必ず、『あの時、あの人がデータ活用を組織にインストールしてくれて良かった』と感謝される時が来るはず。そんな風に日々自分を鼓舞しています。会場にいる皆さまも仲間だと思いますので、何らかの形でご一緒できれば嬉しいです」(戸松氏)
