「生理中も元気に」という描き方への違和感
冒頭、ランドリーボックスの西本氏は「女性の健康」に焦点を当てたサービスが注目されていることに言及しつつも、まだまだ相談しづらいテーマで、インサイトの詳細な把握が難しいことを指摘。そんな中、今回紹介する花王の取り組みでは、インサイトをしっかりと把握し、生活者とコミュニケーションを取りながら事業を展開していると解説した。

花王で「ロリエ」ブランドを担当する手島氏はまず、ロリエの事業戦略と具体的な取り組みについて解説した。
ロリエが誕生したのは1978年。初めて高分子吸収体を使用したナプキンとして、生理のある人に「安心」と「快適」という価値を届けることを目指して開発されたという。2022年のリブランディングを経て、現在はブランドパーパス「生理をもっと過ごしやすく」を掲げ、商品開発を実施。加えて、ブランドパーパスを具現化する活動として、初経教育、検診促進、ナプキンの備品化などに取り組んでいる。
花王がロリエのリブランディングを実施した背景には、2つの課題があった。1つは生理中の過ごし方についてだ。手島氏は「働く女性が増えてきた中で、生理のときに『我慢したくない』という女性の声が顕在化し社会課題になりつつありました」と振り返る。以前の広告などでは、たとえば白いパンツスタイルで笑顔の女性を打ち出していた。多くのユーザーに受け入れられる一方で、いわゆる“キラキラとした描き方”に違和感を覚えるという意見も見えてきた。
「元気に働く姿を見せることで、『生理中も無理して働かなくてはならない』という圧力を感じる、という意見もありました」(手島氏)
もう1つの課題はブランド力の向上だ。特に若年層からの購入意向をより高めるために、ブランドとしての信頼を醸成することも大きな課題だった。
「代弁」と「行動」をキーワードに
これらの課題を踏まえて実施した調査では、テレビ番組で生理の特集が組まれるなど、生理のオープン化が進んでいる一方、現実では相談などをしづらく、ギャップを感じている人が多いことがわかった。調査結果を踏まえて議論を重ねた結果、「代弁」と「行動」の2つのキーワードに行き着いたという。

まず、「生理中でも無理して頑張らなくてはならない」と取られる描き方をやめ、「頑張りたくても頑張れないときもある」という“本音”を、ブランドアンバサダーを務める俳優の二階堂ふみさんの声で「代弁」するという描き方に切り替えた。
そして、実際の「行動」として立ち上げたのが「職場のロリエ」だ。ブランド自らアクションを起こし、働く環境を改善することが必要だと考えたという。手島氏は「ナプキンのメーカーとしてできることにフォーカスし、『当たり前のように職場で生理用品が備品化されている社会』を目指して取り組みを始めました」と話す。

この取り組みでは、職場に専用ボックスを置いて、その中に備品として生理用品を入れて使ってもらう。当初は3社に導入してもらい、スモールスタートで実施した。導入企業の社員アンケートでは、備品化の継続希望は97%に上り、企業からは「従業員の帰属意識やモチベーションの向上につながった」「女性支援のイメージが形成された」という声も寄せられた。その後、導入企業は増加し、2024年12月時点で300社に到達。女性従業員の比率が低いゼネコンや物流業界でも、導入企業が増えているという。