ターニングポイントとなった「新カテゴリー」の創出
Sales Markerは、国内で初めて「インテントセールス」を提唱し、創業から約3年で30億円超のARR(年間経常収益)を達成。ユニコーン企業の成長速度指標とされるT2D3(※)の“2倍”の速度で成長するなど、今最も勢いのあるスタートアップだ。
この成長の背景には、単なる営業効率化や手法の刷新ではなく、「市場を創る」という発想の転換がある。事業成長を“再現可能”な戦略として描くために、インテントという顧客起点の情報と、カテゴリー戦略という構造的アプローチが掛け合わされた。
T2D3……Triple, Triple, Double, Double, Doubleの頭文字をとった略称。SaaS企業の成長戦略を表す指標で、ARR1億円を起点に1年毎に3倍→3倍→2倍→2倍→2倍と成長させていくことを目指すモデル

創業当時から同社のグロース戦略を支援してきたSales Marker 外部顧問でもあるsusworkの田岡氏は、「ターニングポイントとなったのは、Sales Markerを表す言葉を『セールスインテリジェンス』から『インテントセールス』と言い換え、新たなカテゴリーを作ったこと」と振り返る。
セールスインテリジェンス領域は、過去に様々なスタートアップが挑んできたマーケットでありながら、日本では浸透してこなかった。Sales Markerはその理由を“WHO(誰に向けた価値なのか)”から見直した。そして、自社の事業を最も大きく成長させるコアターゲットは「シリーズC以降のスタートアップ企業」であると定義した。「彼らはすでに様々なセールス施策を試し尽くしていて、次なる戦略やチャネルを模索している段階にあると考えました」(田岡氏)

新規営業開拓は、電話を100本かけても商談が1本決まるかどうかもわからないほど、顧客ニーズの有無が不透明だ。そこで、Sales Markerは「Web検索から“今ニーズがある企業”がわかる」という点を訴求。その反響は大きく、ビジネスメディア「PIVOT」で初めてインテントセールスを訴求した際には、5日で約300件の問い合せが殺到し、受注ベースでROIを10倍以上達成したという。
「インテントセールスと言った途端に、展示会でも一気に反応が変わりました。これはもう営業担当者が使うものだと。インテリジェンスという言葉よりも、現場の営業にとって価値のある“実務で使えるサービス”として受け取られた。浸透のスピードも、そこから一気に加速したと僕自身も実感しています」(花田氏)

カテゴリー戦略の重要性
顧客が思い浮かべるプロダクトは、カテゴリー内で2~3つ程度に限られると言われており、その中でも「最初に想起されるもの」が選ばれる確率は圧倒的に高い。だからこそ、「事業成長を実現するためには、まずそのカテゴリー内でNo.1になることが不可欠」だと田岡氏は強調する。
では、すでに成熟した市場の中でカテゴリー内No.1を目指すことが難しい場合、どうすればよいのか。田岡氏は、「No.1になることが難しければ、自らNo.1になれる新たな市場を定義し、そこで選ばれ続ける状態をつくるべきだ」と語る。「深い顧客理解にもとづいてコンセプトを磨き上げ、他と比較されることなく、顧客の頭の中で“第一想起”を獲得し続ける。これこそがカテゴリー戦略の本質です」(田岡氏)
新たなカテゴリーとは、「〇〇と言えば××社」と顧客の頭の中で即座に想起される状態を指す。たとえば、「掃除機」と聞けば複数のメーカーが思い浮かぶかもしれないが、「ロボット掃除機」と言われれば「ルンバ」が真っ先に浮かぶ人が多いのではないだろうか。このように、特定の言葉と企業・製品が結びつく状態こそ、カテゴリー戦略が目指すゴールである。
田岡氏は、「カテゴリー戦略は、顧客の頭の中に自社を定着させる“メンタルアベイラビリティ”(想起・好意度)と、実際の接点や購入可能性を高める“フィジカルアベイラビリティ”(配架率・顧客接点)双方に効果がある」と説明する。
さらに、カテゴリー戦略はスタートアップに限らず、大手企業にとっても極めて重要な取り組みだという。なぜなら、大手企業の多くは、現在あるいは過去においてカテゴリーNo.1のブランドを確立してきた経験があるからだ。しかし一方で、コモディティ化が進むなかで優位性や差別化要素が埋もれ、成長ドライバーを見失うと、やがて価格競争に巻き込まれ、収益の低下を招くリスクが高まる。

こうした状況を打開するカギが、カテゴリー戦略である。比較されることなく顧客に選ばれ続ける、圧倒的に強いカテゴリーを築くことで、新たな成長の足場を見出すことができるのだ。
新カテゴリーを作るには? 「独自価値×想起×連想」の方程式
では、自社が勝てる新カテゴリーを作るにはどうすれば良いのか。続いて、田岡氏は戦略的にカテゴリーを作るための3つのステップを解説する。
ステップは非常にシンプルで、1つ目は顧客の潜在的な課題を抽出する「顧客理解」、2つ目はその顧客課題を解決する自社の「独自価値」の定義、そして3つ目は「カテゴリー」を定義することだ。
「あらゆるカテゴリーは、お客様自身もまだ気づいていない課題に対して、新しい価値で解決していくことで生まれます」と田岡氏。顕在課題には、すでに多くのソリューションが存在しており、そこでは差別化が難しい。だからこそ、可視化や言語化がされていない“潜在課題”を見つけ、それを独自の価値で解決することに意味がある。そして、その価値を顧客がイメージしやすい形で届けていくことが重要だ。すなわち、独自価値×想起×連想の掛け算である。

課題啓蒙×信頼獲得でカテゴリーを浸透させる
では、自社が勝てるカテゴリーを定義したあと、それを市場に創出し、認知を獲得していくにはどうすればよいのか。田岡氏は、カテゴリーの獲得には、「課題啓蒙」と「信頼獲得」の2つが必要だと言う。
まず、顧客自身がまだ明確に言語化できていない“潜在課題”を整理し、言葉にして伝えることで共感を生み出す。これが課題啓蒙だ。そして、その課題を自社の製品やサービスが確実に解決できることを示すことで、ブランドへの信頼を積み上げていく。これが信頼獲得である。
この2つの掛け算によって、顧客との接点を最大化しながら、ブランドの認知と信頼を同時に育てていくことができる。こうしてカテゴリーは市場の中で定着し、競合と一線を画すポジションが築かれていく。

しかし、そこで満足してしまっては意味がない。田岡氏は、「顧客(WHO)は移動する」ことを常に意識するべきだと語る。カテゴリーの初期段階では、イノベーター層が新しい技術や製品の価値を積極的に理解してくれるため、手応えを感じやすい。しかし顧客層はやがてアーリーマジョリティーへと移行し、評価軸も“加点”から”減点”へと変化していく。小さな不満やできない点がネガティブに作用しやすくなるのだ。
そのため、Sales Markerでは、フェーズの変化に応じて何度もコアターゲットを見直し、再定義してきたという。そして、そのたびに「課題啓蒙」と「信頼獲得」を繰り返すことで、カテゴリーを育て、ブランドとしての信頼を積み上げてきたのだ。
「潜在課題は、いろいろな方々に共通するからこそ、継続して価値が提供できています。ただし、その伝え方は、常にカテゴリーの成熟度に合わせて変えてきました」(田岡氏)
初期段階ではビジネス動画チャンネルなどを活用し、顧客が抱える課題を言語化しながら「インテントセールス」という新たな考え方について解説。次に、事例が蓄積されてきた段階で、タクシー広告やCM、書籍など幅広いリーチを持つ媒体を通じて信頼を広げていった。そして今では、「インテントセールスとは何か」という思想そのものを経営者に届け、中長期的な成長を支えるパートナーとしてのポジションを築きつつある。
顧客のニーズを掴むインテント
新カテゴリーを浸透させるには、顧客ニーズを継続して捉えることが欠かせない。花田氏によると、こうした顧客ニーズの把握と成果の最大化において、「Marketing Marker」が大きな役割を果たすと言う。
「Marketing Marker」では、Web検索行動などを“インテントデータ”として捉え、同社が保有する約520万社分の企業データと掛け合わせることで、どの企業が、どのようなテーマに関心を寄せているのかを可視化できる。インテントデータとは、企業の関心や検討の兆しを示す行動や反応をもとに、意向を読み解くためのデータである。たとえば「〇〇業界の中でも、従業員100~300名未満の企業からの検索が最も多い」といったように、誰が、いつ、何に興味を示したのかという“動き”を把握することで、“マーケットを可視化する”ことが可能になる。
こうした可視化は、いわゆるコンバージョンを前提としない。たとえ問い合わせや資料請求が発生していなくても、広告や動画、ホワイトペーパーなどの認知施策に対する関心や反応の“兆し”を、インテントデータとして定量的に捉えることで、市場の動きそのものを読み解くことができる。カテゴリー戦略においては、フェーズごとに展開される施策が、実際にどのセグメントにどれだけ届いているのかを把握することが重要だ。こうした“反響”を可視化することで、マーケティング戦略全体の設計と改善に活かすことができるのだ。
こうして可視化されたインテント情報は、単なるデータにとどまらず、具体的なアクションへと直結させることができる。関心の兆しを捉えた企業に対して、最適なチャネルやタイミングでアプローチを設計できるため、従来の一律な施策では見逃していた“検討中の企業”への接点を確実に生み出すことが可能になる。つまり、「いま、誰が、何に関心を持っているか」がわかることで、マーケティング全体を静的な設計から動的な意思決定へと進化させ、成長戦略におけるマーケット開拓の質とスピードを大きく高めることができるのだ。

カテゴリーは「顧客の頭の中」に想起されるもの
花田氏は「コモディティ化した企業や商品こそ、カテゴリー戦略を考えることをおすすめします」と提案する。「市場には比較対象があふれています。お客様が商品を選ぶ際には、いくつかの選択肢を比較したうえで選んでいる。だからこそ、“他とは違う価値”を自社で明確に定義しておくことが、選ばれる理由になるのです」(花田氏)
また、カテゴリーは企業側が発信するものではあるが、顧客の頭の中に想起されるものでもあるとした。「カテゴリーはお客様起点で考え、製品やサービスが想起されることが大切です。まずは自社の顧客にどれだけ丁寧に向き合えているかを見直すことから始めてみてはいかがでしょうか」(花田氏)
田岡氏も同意し、「お客様に対し、“一言で言うと”と言えるものがカテゴリーです。お客様の頭の中で想起され、頭の中に残るものでないといけません」と語る。さらにこう補足する。「たとえばお客様がそのプロダクトを、社内会議にかけようとしたとき、上司に報告しようとしたとき、あるいは友人にシェアしようとしたときに、どう説明し、どんな言葉で紹介するのか。そのときに自然と選ばれる表現こそが、まさにカテゴリーだと思います」と補足した。
加えて田岡氏は、カテゴリーは自社だけで完結するものではなく、競合や周辺プレイヤーも含めて創られていくものだとし、「カテゴリー浸透は、“エコシステム”つまり生態系のような広がりとして捉えていくとわかりやすい」と補足する。「インテントセールスにも共に啓蒙活動を行ってくれるパートナーが多くいます。そうした仲間と共通の文脈で発信し続けることで、カテゴリーに厚みが生まれ、結果として自社の持続的な事業成長につながっていく。これが、私たちが考えるカテゴリー戦略の真髄です」(田岡氏)
最後に田岡氏は「皆さんと一緒にカテゴリー戦略を盛り上げ、日本からグローバルに発信できる新しいカテゴリーを作っていけると嬉しいです」と締めくくった。
カテゴリー戦略を伴走します!
Sales Markerは、suswork社と連携し、カテゴリー戦略支援パッケージ「CATEGORY」を提供しています。既存の競争軸にとらわれず、顧客の課題起点で“自社が勝てる構造”を設計するアプローチであり、カテゴリー戦略を単なるラベリングではなく、事業成長につながる仕組みとして機能させることを目的としています。ぜひ以下の問い合わせフォームよりお問い合わせください。