そもそもマーケティングとは? 金井氏が考える定義
MarkeZine:一口に「マーケティング」と言っても、そのなかには多様なジャンルがあると思います。リクルートに転職後、金井さんはどのような強みをもつマーケターを目指したのでしょうか。
金井:仕事をしながら模索していました。ただ、明らかにデジタル化が進んでいる世の中なので、デジタルに強いマーケターになれば間違いないだろうと考え、デジタルのスキルから伸ばしていきましたね。
正直なところ、30~35歳までのあいだは「マーケティング=売れること・価値を作ること」と抽象的に捉えていました。自分のなかで「マーケティングとは何か」をようやく定義づけられたのは、35歳ごろになってからです。
MarkeZine:現役マーケターでも、定義を明確に言語化するのは難しそうですよね。金井さんの考えるマーケティングとは、どのようなものなのでしょうか。
金井:私が語るのはまだ早く僭越なのですが、現段階の私の定義としては、「人が作り出すマーケットのニーズに、限りなくリアルタイムで価値を届ける(創る)ための適応をして、効率的に利益を生み出すこと」と考えています。
大前提、どんな商材であってもマーケティングのターゲットは必ず「人」であり、その集合体がマーケットとなります。だからこそ「人」にフォーカスし、人々がどのような思考でマーケットを作っているのか捉える必要があると思います。
その上で、人々が作り出すマーケットのニーズを捉え、事業が提供する価値≒強みをニーズに適応させる。なければ、価値を創り出してマーケットに適応させることが本丸です。
そして、マーケットのニーズが高まる瞬間に価値を届けることができれば、そのサービスはグロースできます。たとえばiPhoneは言わずもがな、スマートフォンのニーズが高まる初期の瞬間を捉えたヒット商品です。ある程度ニーズが顕在化してきてからでは遅く、ニーズが生まれる、もしくは高まるタイミングに合わせて価値を届けなければ、マーケットにリアルタイムで適応することはできません。欲しい時に、欲しいものが届くとギフトのようになり、届けた人たちに喜んでいただけるではないでしょうか。

マーケティングの8割は現状分析、徹底的に「数字」を見る
MarkeZine:その「タイミングを読む力」は、スキルとして磨けるものでしょうか。それともセンスなのでしょうか。
金井:正直、最も難しいのがタイミングを読む力だと思っています。私自身も、本当に難しいと思っているのですが、確率を上げていくことは伸ばしていける部分だと思います。見るべきポイントは数字の「大きさ」と「伸び率」です。現状分析を様々な観点で深める中で、この2つの観点で数値を時系列でウォッチして、違和感のある部分を見つけることが重要です。
マーケティングはどうしても、「HOW=どのような手法を打つのか」ばかりにフォーカスされがちですが、私は「マーケティングの8割は現状分析」だと考えています。
たとえばですが、マーケティング担当の方が戦国時代の城主で、敵が歩兵の大軍で攻めてきているとします。その時、城から外を見て平地だからスピードで優位となる騎馬隊で出動しようと意思決定をしたとします。ですが、実際には平地でも土がぬかるんで足が数十センチ沈んだり、草が数センチ生えていたり、砂利が無数に転がっているだけでもスピードを失ってしまいます。つまり、浅い現状分析でHOWを考えると、実行した時にちょっとした想定外にもつまずいてしまい、勝てなくなってしまうことがあります。
上記はあくまでも比喩ですが、勝率を上げていくためには、細かい数字も見ながら現状分析を徹底的に行うことで勝ち筋を見極め、できる限りの想定外も考慮して戦略を考え、その上でHOWを実行する必要があると考えています。