予測不能なリスクを「おもしろさ」に変える シリーズ連動の舞台裏
MZ:シーズン成績に展開が左右される点は企画のおもしろさである一方、大きなリスクでもあると思います。この不確実性をどう戦略に組み込み、仮に成績が振るわない場合の「リスクヘッジ」はどのように考えられていますか?
林:正直なところ「やってみないとわからない」というのが本音です。もちろん、企画検討時には「最下位だったらどうするのか」という意見も散々出ました。しかし、仮に成績が振るわなくても、ファンの方々は「この状況をどう描くのだろう」と、逆に想像を掻き立てられるかもしれない。そうした可能性も含めて「とにかくやってみよう」と決断しました。
野球は他のスポーツに比べて試合数が多く、6連勝もあれば6連敗もあり得るため、変化が非常に激しいです。その分、用意したシナリオ通りには進まない難しさがありますが、試合数の多さゆえの展開の目まぐるしさ、そのハラハラ感を楽しんでいただけたらと思います。
MZ:「リーグ優勝できなければ魂を奪われる」という設定もかなり挑戦的ですが、どのように決まったのでしょうか。
林:脚本の高崎さんからいただいた「ファンの命を賭ける」という究極のアイデアが元になっています。当然、社内では「ファンを一番大切にすべきだ」という慎重な意見もあり、特にリスク管理を担う部署からは懸念の声も上がりました。
ですが「マイナス面だけを考えていては、何も挑戦できない」という考えのもと、部署間でしっかり対話し、全員が納得した上でスタートを切りました。
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MZ:シーズン連動型という点での難しさはいかがでしょう?
林:日々の結果に合わせてストーリーを変えていくので、制作現場は本当に流動的です。撮影のギリギリ前日まで粘って台本を変更することは日常茶飯事で、前日の夜まで「どうするか」と話し合うこともあります。先日、藤浪晋太郎投手を始め3人の新規獲得選手を発表しましたが、制作陣も事前に知らされていなかったため、急遽「この話題を脚本に入れるべきか」といった相談も行われました。
MZ:結末、つまり「最終的な落とし所」はすでに決まっているのでしょうか。
林:当然優勝するつもりでやってはいます。仮にワーストシナリオになった場合、「やっぱり死なせるわけにはいかない」というのはありますが、最後は私たち自身も「知らないほうが楽しいのではないか」ということで、結末がどうなるかわからないまま、ある意味楽しみながら進めているのが実際のところです。
新規も古参も熱狂させる“小ネタ”と、プラットフォームの鉄則
MZ:ストーリー作りを含め、制作するうえで大切にしていることは何でしょうか。
林:新規ファンと既存ファン、その両方に楽しんでもらうことを一番に意識しています。新規ファンにとっては野球を知るきっかけになり、既存ファンにとってはより深く楽しめる。この両立を常に心がけています。
そのために、既存ファンだからこそ気付ける“小ネタ”も随所に散りばめています。たとえば、レストランのメニューにラミレス元監督にちなんだ「デミ“ラミレス”ハンバーグ」があったり、往年の「スーパーカートリオ」の名前がどこかに登場したり。OB選手に特別出演していただくこともあります。こうしたファンならではの発見も、楽しみの一つとして盛り込んでいます。

MZ:そうした仕掛けがあると、何度も見返すファンもいそうですね。配信プラットフォームであるTikTokやYouTubeの特性は、どのように活かしていますか?
林:実は、大々的なプロモーションは行わず、地道にコンテンツ作りに徹しています。ありがたいことに、取り組みやストーリー自体のおもしろさからスポーツ新聞などのマスメディアに取り上げていただく機会が多く、それがきっかけで注目度が加速度的に高まったと感じています。
プラットフォームの特性で意識しているのは、最初の数秒で視聴者の心を掴むことです。次々に動画が流れるSNSでは「つかみ」が何より重要だと制作チームには伝えています。また、音声なしで視聴する方も多いため、字幕を丁寧に入れるといった基本的な作法も大切にしています。
配信は、試合のない月曜日に行うことが多いですね。野球がなくて寂しい思いをしている既存ファンに、新たな楽しみを届けたいという狙いがあります。