楽天グループが推進するAI活用戦略
生成AIツールの登場により、あらゆる業務領域でAI活用の可能性は広がった。日本企業においても、AIをいかに業務に取り入れ、競争力を高めていくかが喫緊の課題となっている。そうした中、AI活用を推進する代表的な企業といえば、楽天グループだ。
同グループは、「マーケティング効率」「オペレーション効率」「クライアント効率」の3つを20%向上させる「トリプル20」という目標を掲げ、AI活用を推進している。
楽天インサイトも、この戦略の一翼を担う。同社は「画像・動画のAI解析」「AIチャットインタビュー」「AIによる分析結果の自動レポーティング」という、3つのAIソリューションを展開している。
「AIに強い楽天グループの中にあるリサーチ会社として、リサーチ×AI活用の業界第一人者でありたい」。そう語るのは、AIソリューションズ部にて、新たなリサーチ手法の開発を主導する伊藤暖氏だ。

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今回、伊藤氏がリサーチ対象としたのは「育休パパ」という新しい消費者セグメントだ。厚生労働省が令和6年に実施した調査では、男性の育児休暇取得率は前年比10.4%増の40.5%に達し、18〜25歳男性の取得意向は84.3%と、この市場は急速に拡大している。
しかし、楽天インサイトの自社調査による「育休パパ」の実態を見ると「取得して良かった」と88.0%が感じる一方で、79.3%が「家事・育児を大変だと思っている」。また大変だと思う理由についても聞いたところ、「自分の時間や休息が取れない(55.8%)」「仕事と家事・育児の両立が難しい(50.7%)」という声も多い。
この矛盾する感情の背景には、どんなインサイトが隠れているのか。
画像収集×AI解析:画像から「商品名」を含むリアルな実態を把握
さらに同社の調査では、自分の自由時間に欠かせない「お気に入りのモノ・コト」を、育児が終わった後も引き続き使いたいといった回答が95.9%だったという。この驚きの結果は、「育児期間は、高LTV関係を築く重要なタイミングである」ことを示唆していると考えられる。
これらの結果から、伊藤氏が着目したのは「育休パパ」の「自由時間・息抜き時間に欠かせないモノ・コト」だった。この時間の過ごし方を深掘りすることで、新たな商品開発やマーケティング戦略のヒントが得られるのではないか──。そんな仮説を立て、「画像や動画のAI解析」と「AIチャットインタビュー」という2つのAIソリューションを用いて深掘りを目的とした実態調査を実施した。

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「画像や動画のAI解析」では、「育休パパ」経験者である281名のサンプルから「息抜き時間に欠かせないモノ・コト」に関する画像とテキストを収集し、AIで解析した。従来であれば、画像データを目視で確認する必要があり、工数がかかる上に扱いが難しいという課題があったが、AIによりデータの定量化や量的分析が可能になった。
たとえば、ある回答者は「好きなドラマ、バラエティー、アニメなどを録りためて、疲れた状態でぼーっと見る」とテキストで回答した。一方、提供された画像をAIが解析すると、テレビ、アニメのDVDケース、DVDディスク、リモコン、おもちゃ、子どもの絵、本、お菓子の包装を判別した。

また、「サケ」というテキストとともに提供された画像から、ワインボトルやワイングラスを判別した。AI画像解析を使えば、画像内のワインの銘柄も特定できるため、実態把握の精度を格段に向上できる。
さらに、画像からAIが判別した情報をテキストデータに変換することで、量的な評価も可能になる。今回の調査では、「デジタル機器・ガジェット(37.7%)」「本・マンガ・映像・ゲーム(33.8%)」「飲食・食品(26.0%)」といったカテゴリー別の割合も算出できた。

重要なのは、これらのテキストデータは選択肢を用いたアンケートではなく、画像から自動的に抽出されている点だ。選択肢を用いた定量調査では、「主観が入る」「恣意的になる」といった懸念があるが、AI解析で自動的にデータを取得する手法は、そうした実態調査の妨げになる要素を取り除ける。