プロダクトアウト思想から脱却し、全社マーケティングを目指すポーラの取り組み
木村:ここで小林さんのお話を振り返って、少し踏み込んだ質問してみたいと思います。先ほど、「顧客価値創出のプロセス全般がマーケティングである」という考えから、組織を再編されたとお聞きしました。いわゆるマーケティング領域を見ていない方々は、どのように「マーケティング」に近づいていくのでしょうか?
また、小林さんが「ディセンシア」を立ち上げた時、なぜいきなりCMOの仕事ができたのか? ありきたりな問いですが、どのようにマーケティングを学ばれたのかもお聞きしたいです。
小林:私もありきたりな答えになってしまうのですが、まずは顧客をよく知ることが大事だと考えます。私自身、「ディセンシア」を立ち上げた時は、300時間以上使って約200人に1対1でインタビューを行いました。
ポーラやオルビスのように歴史があり、研究開発に大きな投資をしているようなメーカー企業は「うちはモノがいいから、勝てるはずだ」と、どうしてもプロダクトアウトの思想になりがちです。そうした思想を変えていくためにも、オルビスではお客様イベントを全部署参加必須にしています。経営者や役員はもちろん、人事や法務の担当者も必須参加です。会社全体でお客様に向き合い、みんなでお客様との輪の中に入っていくということを徹底していますね。
この時、経営陣がブランド人格としてお客様に向き合うことも非常に重要です。ポーラと比べると価格帯が低いオルビスの場合、お客様の生活にブランドが入り込んでいく必要があります。ですので、私もオルビスのお客様イベントでは親密にコミュニケーションを取るようにしており、実際イベントに出ると「たっくん(小林氏)来た!」と、さながら推し活のようにチャットが賑わうんですよ。お客様とステークホルダーの境目すらなくなっている今、経営者がブランド人格としてお客様に向き合うことはとても大切だと思います。
中川氏、小林氏が考える「これからのブランディングの勝負所」
木村:最後に、これからのブランディングで大切にしていくべきことについて、お二人の意見をうかがえますか?
中川:AIアシスタントなどの普及により効率化が進んでいる現代、「時間」の価値はさらに高まっていくだろうと考えます。情報の消費速度が速くなると、新商品やキャンペーンの情報が消費されるスピードも速くなっていく――この変化にもはや抗うことはできません。
このような情報の消費速度が速い環境でこそ、ブランディングが重要になります。ブランディングがうまくできていないと、どんな新商品もキャンペーンもただ情報として消費されるだけで、「その時限りの単発の意味合い」しか持たないことになる。つまり何もブランド側に蓄積されないので、施策を実施する度に毎回大きな投資が必要になり、事業としてビルドしていきません。ブランドに紐づけて意味が蓄積していくモデルを作れるかどうかが、持続性のあるビジネスを作っていけるかの勝負を大きく分けることになると思います。

小林:私は「何のためのデータドリブンなのか」を、突き詰めて考えていかなければと思っています。ブランディングもマーケティングも最終目的は「顧客価値の創出」であり、それを実現するためには「なぜその現象が起きたのか」という因果関係を突き止め、PDCAを回していくことが重要です。それを積み上げた先に、ここまで我々がお話ししてきた付加価値の創出と、利益率の向上があるのではないでしょうか。