広告会社の癖:「企画からの逆算」でインサイトを考える傾向が
藤平:ちなみに米田さんは、広告会社のCDやプランナーが出してくるインサイトに、癖や特徴を感じることはありますか?
米田:はい、ありますね。テレビCMを見ていても「これはあの人が作ったのかな」とか、勝手に想像しています。

藤平:なるほど。ここまでお話ししてきて、気を抜くと自分も出しがちな「広告会社的インサイト」には2つのよくない癖があるなと気づきました。1つはインサイトを企画から逆算して、都合よく考えてしまう傾向があることです。社内では自戒を込めつつ「プランナーの考えるインサイトの8割は都合が良すぎる」といった風に言われることもありますが、企画を考えていく中で目についたユニークな兆しを都合よくインサイトと呼ぶ、ちょっと浅い着地のさせ方は課題だなと。
もう1つ、博報堂の“生活者発想”という考え方を安直に捉えると、それが悪いほうに影響してしまう場合もあるかもしれません。そうなると、広く浅いインサイトで着地してしまう可能性が出てきます。ホリスティックに考えられるという良さもあると思いますが、「誰の(インサイトなのか)」という焦点を定め、マーケティング課題に対してもっと鋭利に向き合わなければならない、と思いました。
米田:「鋭利に」という言葉はいいですね。「ユーザーの話を聞こう」「生活者目線で」というのは簡単ですが、実際のビジネスに繋げたいならば「誰のどんな態度/行動変容を促したいのか(インサイトを見つけるか)」という目的から始めることが必須だと思います。目的思考でなければ、よいインサイトは出せません。
特定のビジネス課題を定めずに調査してしまうと、見えてきた発見が概念的なものに留まってしまい、「ではどうビジネスにつなげるか?」と逆算しようとしても出口が見つからない……というケースはよくお見掛けします。
鍵は俯瞰性。マーケティング戦略としてインサイトを「マネジメント」していく
藤平:ここまでで見えてきたいくつかの課題を大きくまとめると、「マーケティングのシステムにインサイトが含まれていない」「結果、インサイトだけが独立して都合よく消費されることがある」ということになると思います。では広告会社はどうするか――僕は「俯瞰性」がカギになりそうだなと感じています。
インサイトは「消費者にディープダイブし探索するもの」という印象がありましたが、米田さんの話を踏まえると、それは役割の半分に過ぎず、マーケティングの全体像の中でインサイトをどう動かしていくかという「俯瞰性」が大事になってくるわけですよね。言われてみれば、当たり前のことのようにも思えるのですが、かなりハッとしました。何なら、俯瞰性のほうが大事とまで言えそうです。

米田:そうですね、私も、「深さ」の前に「俯瞰性」のほうが大事だと思います。あたりを手当たり次第にいくら深く掘ってみても、源泉は出てこないですからね。マーケティング的な視点で市場や消費者を俯瞰的に見て、「誰の(インサイトを深掘りするか)」という焦点を定めてから掘るわけです。
そういえば、P&G時代、同僚に「自分はインサイトを探そうとして、農耕民族のように端から端まで丁寧に掘っているのに、米田さんは空高く舞いながら、鷹のように狙いを定めて一点を狙って掘る」と言われたことがありました。
藤平:そこ非常に気になります。米田さんが空高く舞っているときは、生活者や市場を定量的に見ながら、およそここらへんに「課題」がありそうだな、と当たりを付けていく感じですか?
米田:その通りです。マーケティング戦略としてインサイトを捉えるので、おっしゃる通り、課題抽出が一番大事だと思っています。空高く舞っているときは、俯瞰的な目線で、定量データ分析(アンケート調査、実売データなど)や、ターゲットの生のストーリーなどマルチソースのデータを活用し、「課題」を絞り込んでいきます。
藤平:そういうことですよね。社内では「データ派か、インサイト派か」と、二項対立のように語られる向きもあります。自分はずっと「インサイト派」に属しているつもりでしたが、そうではなく、そこを統合した上で、クリエイティブなマーケティングモデルを作る必要があるのだな、と思いました。
