ペルソナは「サマリー」に過ぎない。インサイト×AI活用の可能性と留意点
藤平:最後に大きく話題を変えて、インサイト領域におけるAI活用の可能性についてお話を聞かせてください。データをインプットし、良いインサイトの定義を学習させても、まだしばらくの間は、インサイト領域の人間のスキルや洞察はAI化が難しいのではと思っているのですが、米田さんはAI化できると思われますか?
米田:私は「AIは大いに活用できる」と思っているんですよ。マーケティングは数値化が可能な「方程式」であり、インサイトもPDCAに組み込んで回していくものであるとすると、AI化は十分に可能だと考えています。
藤平:たしかに、マーケティング上の目的や課題に対するインサイト、という呼応関係の美しさというか整合性の部分は再現性がありそうですね。
米田:そうなんです。インサイトの探索に関しても、人間よりAIのほうが得意な部分はあるはずと考えています。
たとえば、人間とAIの違いとして「先入観の有無」があります。先入観を持たず、ちょっとだけ定義を緩めてみたり、ずらしてみたりすると「あ!」という発見があったりするんです。固定概念に縛られている人はなかなかこの「ずらす」「緩める」ができません。違和感を覚えたときは、定説を外して点と点を繋ぐことで新たな意味や価値を見つけ出す――この手法を私は「Connecting the Dots」と呼んでいるのですが、「Connecting the Dots」は先入観のないAIのほうが得意な可能性があります。

一方で、AIに生活者のビッグデータを学習させてペルソナを作成するといった使い方も最近多いですよね。それ自体に問題があるとは思いませんが、AIが作成するペルソナは、既知データをサマリーした結果なので、そこから新しいインサイトは出てきません。新しいインサイトを出すには、まとめる/分類するだけでなく、新しい切り口を見つける必要があるので。
藤平:ペルソナからインサイトは出てこないのは本当にそうですね。先の「都合のいいインサイト」をペルソナから生み出してしまう、という悪癖もありますし、手触りのないまま物事が進む一因になってしまいそうです。
米田:ペルソナの手法自体を否定するわけではないのですが、ペルソナはあくまで既知データを平均化した空想上の人物であるという前提を忘れず、うまく活用できるとよさそうですね。
藤平:自分はこれまで「ファクト(事実)→パーセプション(一般的な認識や思い込み)→インサイト」という段階でホットボタンを整理していたのですが、特にこのパーセプションのフェーズはwith AIで高度化していく余地がありそうです。半年後には真逆なことを言っているかもしれませんが(笑)、本丸となるインサイトを見つけるところは、個人的にはすごく楽しい仕事のひとつなので、まだ自分で担いたいなと思います。
終わりに、事業会社と広告会社、パートナー会社の協働の在り方について、一言いただけますか?
米田:私は事業会社と広告会社は大いに協働すべきだと思っています。目線や価値観や得意分野が違うメンバーが集まったほうがよりよいインサイトが見つけられますし、画期的なアイデアも出やすいですから。
ベストなパートナーシップで結果を出すためには、お互いに対するリスペクトと媚びない姿勢が大切だと思います。媚びると素晴らしい意見やアイデアが出せませんし、リスペクトが欠けるとせっかくの素晴らしい意見やアイデアが着目されず水の泡となってしまう。受注関係ではなくプロジェクトメンバーとして、同じ目的をもって協働できると強いと思います。
藤平:インサイト自体の有用性の捉え直しはもちろん、AIによって拡張し得るインサイトの活用可能性まで、大変多くの学びをいただきました。本日はありがとうございました!
広告産業のパーパス:藤平の仮説キーワード(2025年11月時点)
インサイト×ブランド×グロース
・インサイトはそもそも課題解決性が高いものである
・マーケティングプロセス自体を「インサイトを中心に駆動させる」
・目のつけどころの鋭さと、システムシンキングを両立させる
・「生活者発想」も大事だけど、ときに「消費者発想」も大事
