日本企業こそ「最も生成AI活用に適している」
MZ:日本企業が生成AIを活用して顧客体験を変えるポイントはどこにあるのでしょうか?
高広:日本の営業には、新規獲得よりも既存顧客との関係性を重視する文化が根付いています。「話をしながら関係を作り、モノを買ってもらう」というスタイルは、江戸時代の呉服屋から続く日本型の商売の得意技です。特にBtoBの世界では顕著ですが、この日本のビジネスモデルにこそ、対話型AIは非常にフィットすると考えています。欧米型のセールスは、新規顧客を次々と獲得し、パイプラインを機械的に進めていくスタイルなので、根本的に異なります。
中谷:私もアメリカに住んで感じますが、欧米の過剰な分業制は、顧客体験としては分断を生みがちで、決して良いものとは限りません。個人的には、一人の担当者が寄り添う日本の「THE 営業」が好きですし、良い面がたくさんあると思っています。ただ、その良い面にフタをしてしまうような構造的な非効率性があるのも事実です。AIの力で、日本の営業が持つ「良さ」を引き出しつつ、効率化を図れたら最高ですね。
高広:欧米では契約(クロージング)が終われば、その後のサポートは別部門に移管されますが、日本の営業はその後のフォローも含めて一人が担当しますからね。文脈を理解するAIとの相性は日本のほうが良いはずです。

AI時代、営業とマーケティングの境界線は消滅する
MZ:最後に、AIが当たり前になった世界で、BtoBマーケティングと営業との連携や役割はどう変化していくとお考えですか。
中谷:製品の「最初の説明」のような部分はAIに置き換えられ、そこはマーケティング部門の管轄になるでしょう。営業の役割の一部はテクノロジーに吸収され、領域が凝縮されていくと考えます。その結果、営業にはより「人」としての価値が求められます。コミュニケーション能力や人間的な魅力、そして「人と人との意思決定の難しさ」といった、AIでは対応しきれない領域に、フォーカスされていくのではないでしょうか。
高広:実は私は、中谷さんとは少し違うアングルで見ています。日本型のモデルでは、いっそのこと「マーケティング」という部署をなくし、すべてを「営業組織」の中に統合すべきだと考えています。
欧米は、マーケティングとセールスの分業が進んでしまったことで起きているコンフリクト(仲違い)を解消するため「セールスとマーケティングの統合」が議論されますが、日本では元々、営業企画や営業推進といった部署がマーケティング機能の一部を担ってきました。だから「営業」という大きな組織を作り、その中で役割分担をすればいいのです。たとえば、プロダクトマーケティングやデータ活用(MarTech)の機能などは、営業企画が持てばいい。「マーケティングが遅れているから部署を作る」のではなく、すべての機能を「営業」という大きな枠に放り込んでしまうほうが、日本のビジネス文化には合っています。
顧客との関係性が重視される日本では、組織間の壁を作るよりも、営業という一つの組織内で情報を共有し、顧客対応に一貫性を持たせるほうが、健全なサイクルを生み出すと思うからです。
MZ:非常に示唆に富むお話でした。最後に、これからのBtoBマーケターへメッセージをお願いします。
中谷:今日の議論の根本にあるのは「お客さんとの等価交換」です。製品やサービス、そしてマーケティング情報に関しても、お客さんからいただくデータに見合うだけの「価値」を提供できているかを問い直すことが重要です。「できる限りリードを集めよう」というKPI至上主義は、企業がテイカー(奪う側)になりがちです。改めて「いかに顧客に価値を提供できるか」を主軸に置く視点が大切だと思います。
高広:ビジネスにおいて最も重要なのは、その国や地域の「慣習や文化」の理解です。BtoBビジネスの本質は、独自の商習慣の中にあります。新しい技術やバズワードに飛びつくのではなく、自分たちの国や産業の文化を深く理解した上で、AIという技術をどう組み込むか。その視点を持って活用を進めていただきたいですね。
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