生成AI活用が当たり前の時代に
セッションの冒頭、LINEヤフーの田村氏は会場の聴講者に向けて「AI、使っていますか?」と問いかけた。昨今、生成AIの企業導入は急速に進み、売上高1,000億円以上のプライム上場企業における導入割合は昨夏時点で95.6%に達している(出典:デロイト トーマツ グループ「デロイト トーマツ、プライム上場企業における生成AI活用調査発表」)。
そして、AI活用・浸透度の高い企業ほど意思決定のスピード、生産性、収益が向上する傾向にある。こうした企業に共通するのは、単なる業務効率化にとどまらず、事業構造そのものの変革を重視している点だ。
ここ1、2年で生成AIの導入フェーズは概ね終了しつつあり、いかに社内へ浸透させ、活用度合いを深めるかという戦いへと移行している。マーケティング領域におけるAI活用の実態を見ると、企画・アイデアの壁打ちや議事録・ドキュメント作成といった用途が約7割を占める(出典:日本マーケティング協会「マーケティングにおけるAI・デジタルに関する調査レポート」)。
一方、コンテンツ作成になると約5割、データ分析や自社理解の文脈では約3割、顧客対応への活用はさらに限られているのが現状だ。多くの活用が既存業務の効率化・省力化の範囲にとどまっているといえる。田村氏は、既存業務の効率化から一歩進んだ活用として、生活者データやナレッジとAIを組み合わせて「AIにしかできない仕事」を行わせる重要性を指摘した。
AIは疲れない。最大限活用できる仕組みとは
AIにしかできない仕事とは何か? この問いを考える際、まずはAIの特徴を押さえておく必要がある。田村氏はAIの大きな特徴は3つあるとし、「疲れない」「全部見る」そして「学び続ける」ことを挙げた。
まず、AIは疲れない点。人間は働けば疲弊するが、AIは休まず稼働し、コストをかければ規模も柔軟に拡大できる。
よくある使い方として「人間が指示を出してAIに調べさせる」が挙げられるが、課題もある。指示を出す人間側がそもそも問題に気づいていなければ指示も出せず、AIも動かないのだ。だからこそ、人間が指示をせずともAIが動く仕組みが理想といえる。
その実践例として、LINEヤフーでは日々の検索ボリュームをモニタリングし、急上昇キーワードを検知した際にAIが自動で背景を調査・レポートする仕組みを社内で運用しているという。検知から報告まで全自動で、インフォグラフィック化にも対応。一度システムを作れば、休むことなくAIが調査・報告を継続して実施する。

実際にこの仕組みを活用したトレンド予測レポート「ネクストトレンド予測」を毎年公開しており、2025年に発表した「ネクストトレンド予測2026」では「ラブブ」のブームを的中させるなど、高い精度を誇る。検索ボリュームの“伸び始めの兆し”を捉えて、流行しつつあるものを検知しているのだ。
AIは全部見る。任せるべきは、潜在的な課題の発見
AIの特徴2つ目は「全部見る」ことだ。人間が一度に認識できる情報量には限りがあり、どうしてもボリュームゾーンに注目し、データを取捨選択してしまう。しかし、AIは膨大なデータをそのまま処理できる。
行動データはロングテール構造になっており、人間が見落としがちなテールの部分に今まさに生まれつつあるニーズや、まだ誰も気づいていない潜在的な課題が潜んでいる。このテール領域の分析こそ、AIに任せるべき仕事だ。

たとえば、検索キーワードマップをAIに解析させることで、ボリュームは小さいが注目すべきニッチなニーズを発見できる。「ドライヤー」というキーワードを例に考えると、「ドライヤー×犬」「ドライヤー×赤ちゃん」といった、ホットワードより少し外れた検索ワードからも新たな商品開発のヒントを得られるだろう。
また、特定キーワードの前後の検索行動を時系列で追うことで、カスタマージャーニーの把握も可能になる。「咳止め薬」であれば喉の痛みから始まり喘息・肺炎への症状進行が見え、「粉ミルク」であれば妊娠初期から出産・育児へと続く関心の変化が浮かび上がる。「大阪・関西万博」の来場者であれば、来場前の周辺観光の検討から、当日の現地での困りごと、来場後の海外への関心の高まりまで読み取れる。


こうした膨大な量の生活者データの分析は、人間が行うには限界がある。AIに任せることで、これまで人の目では見えなかったインサイトを効率よく引き出すことが可能だ。
AIは学び続ける。3種のデータで自社だけのAIを育成
AIの特徴3つ目は「学び続ける」ことにある。人間は覚えたことを忘れ、担当者が変われば社内ノウハウもリセットされがちだ。AIは、与えた情報を忘れずモデル自体も継続的に賢くなり、誰が使っても蓄積された情報は失われない。
いわゆる汎用的な生成AIはWeb上の公開情報をもとに判断するが、社内ナレッジや顧客データを与えることで、自社固有の文脈で深く考えられるようになる。顧客の変化もリアルタイムで検知・対応できる点も、独自データで育成したAIの大きな利点である。
AIに与えるデータには主に3種類ある。アンケートデータ、生活者行動データ、そして自社および外部データだ。
アンケートデータは顕在化したニーズの把握に向いており、データ量も限られるため扱いやすい。生活者行動データは扱うために専門知識が必要だったが、現在はAIのサポートにより分析ハードルは大きく下がっており、顧客自身も気づいていない潜在ニーズの発見に強みを発揮する。そして自社データは既存顧客の深い理解に、外部データは潜在顧客や新規顧客の分析に役立つ。目的に応じてこれらを組み合わせることが重要となる。
LINEヤフー保有の膨大なデータ活用で、広がる可能性
これらの多様なデータを扱う基盤として、LINEヤフーのサービスから生まれる膨大なデータが活用可能だ。1.1エクサバイト超のキャパシティと、日々1.5兆件超のレコード処理を誇る大規模なもので、そのままAI活用にも転用できる点が強みになっている。
LINEヤフーは社内ナレッジボリュームも膨大で、Wikiだけで1万5,000スペース・6,000万ページ以上、共有ファイルは5ペタバイト・4億ファイルにものぼる。これを人間が習得・伝達するのは現実的ではないが、AIを介することでナレッジの横展開が一気に現実的になる。実際にLINEヤフー社内では、分析したい内容を投げるとレポートを返すAIエージェントを構築しており、アナリストが登録した分析の型やナレッジが営業現場まで届く仕組みを実現しているという。

「この環境を整えるうえで重要なのは、既存のDX化/データ分析環境をAI用に解放すること、AI時代のセキュリティ・データガバナンス体制を作ること。そして、外部データも活用してAIを育てることです」(田村氏)
「DS.INSIGHT」で一歩進んだAI活用を
こうした分析環境の構築を手軽に始めるための手段として挙げられるのが、顕在化しにくい消費者のニーズを探索・分析できるデスクリサーチツール「DS.INSIGHT」だ。
DS.INSIGHTは、LINEヤフーが保有する生活者データを外部企業も活用できるサービス。検索データからは「何を欲しいと思っているか」「どれほどの強度でニーズが存在するか」が把握でき、位置情報データは商圏分析や人流分析にも活用できる。
同ツールは、本セッションで紹介されたキーワード分析、カスタマージャーニー分析、トレンド分析の他、ペルソナ分析や表現分析といった機能も備えており、外部データとの組み合わせも可能だ。提供されるのは統計化されたデータであり、個人情報をそのままAIに渡すわけではないため、安心して活用できる。
田村氏は「本日は、生活者・消費者理解においてAIをどう活用するかについて、LINEヤフーの実例をもとにご紹介しました。既存業務の効率化にとどまらず、データとAIを組み合わせることで初めて見えてくるインサイトがあります。一つでもヒントとしてお持ち帰りいただければ幸いです」と述べ、セッションを締めくくった。

