LDH事例に学ぶ、「目的利用」を「習慣利用」へ変える心理トリガー
最後に行われたファンコミュニケーションズの二宮幸司氏、LDH JAPANの原口征則氏、LINEヤフーの宮本裕樹氏によるセッションでは、ユーザーの「熱量」をいかにLINE公式アカウント上で最大化し、維持し続けるかというエンターテインメント領域における最前線の知見が紹介された。
LINE公式アカウントの運用において企業が直面する課題の一つが、友だち数が増えてもメッセージ配信への反応が低い「ゴーストユーザー(幽霊アカウント)」化だ。ファンコミュニケーションズの二宮氏は「友だち追加はゴールではなく、関係性のスタートに過ぎない」と警鐘を鳴らす。
この課題を打破するための設計思想として提示されたのが、企業の情報発信を目的とした「目的利用」の場から、ユーザーが日常の楽しみとして自発的にアクセスする「習慣利用」の場への転換だ。
ファンコミュニケーションズが提供する「N-INE(ナイン) ミニアプリ」は、LINEミニアプリを簡単に作れるプラットフォームだ。動画配信ビューワーや投票、クイズ、ガチャ、コレクション機能など、ユーザーの興味や参加意欲を引き出す「体験のスイッチ」を、ノーコードかつ短期間でLINE上に実装できる。
熱狂をSNSで資産化。パスポート機能がもたらす究極の回遊体験
LDH JAPANとLINEヤフーは、2025年9月に戦略的パートナーシップ契約を締結した。「エンターテインメント×テクノロジー」を掲げ、ファンの日常的な顧客体験をアップデートする大規模な実証実験を積み重ねている。こうした取り組みにより、ファンは情報を受け取るだけでなく、LINE上での能動的なファン活動を日常の習慣として楽しめる環境が整いつつある。
LDH JAPANの原口氏は、実際のLINEミニアプリの運用事例として、まだファンクラブを持たない若いアーティストグループやプロジェクトにおける実践例を紹介した。
その一つが、1日1回発行されるチケットを使ってミュージックビデオを視聴すると、限定デジタルフォトが当たる「限定ガチャ」施策だ。ただゲームを楽しんでもらうだけでなく、必ず音楽に接触してもらうことで、アーティストの本質である「音楽体験」の深化につなげている。
さらに、獲得したデジタルフォトをファン同士がLINEミニアプリ上で手軽にトレードできる「交換機能」を実装。ライブ会場(オフライン)のリアルな熱量がオンライン・SNSに瞬く間に拡散・共有され、ジャンル全体の応援活動を活性化するとともに、強固なファンコミュニティの形成にも寄与している。

そして、現在注目を集めているのが、5月20日にリリースされたミッション型の「TRIBE PASSPORT(トライブパスポート)」機能だ。クイズミニアプリでの解答や、LDH JAPANが運営する店舗やライブ会場でのチェックインなど、多様なミッションをクリアするごとにスタンプを獲得できる仕組みである。
獲得したスタンプはLINEミニアプリ内の共通通貨として利用でき、ガチャや特別なデジタルギフトの交換に充当できる。このパスポート機能を起点とすることで、ユーザーは複数のミニアプリの垣根を意識することなく、「毎日楽しい体験」を積み重ねていくことができる。
LINEヤフーの宮本氏は、今回のLDH JAPANとファンコミュニケーションズの事例に対して「LINEミニアプリを通じて広告や課金でマネタイズできる可能性がある。そういった取り組みをどんどん広げていきたい」とした。
セッションの最後、原口氏は「LINEミニアプリを通じて、より多くのファンに楽しんでいただける体験を提供し、宣伝中心だった運用を変えていきたい」と今後の展望を語った。
本レポートで紹介した3社のセッションに共通していたのは、LINEミニアプリを活用して顧客との継続的な接点を生み出し、関係性を深めていくアプローチだ。ソニックムーブは顧客情報の一元管理と最適なコミュニケーション設計、ギックスは行動データの取得・活用によるライト層との関係構築、ファンコミュニケーションズとLDH JAPANは日常的に楽しめるファン体験の創出と、それぞれ異なる切り口からLTV向上に取り組んでいた。
CACの高騰が続くなか、企業には新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客との関係性をいかに深めていくかが求められている。今回紹介された事例は、顧客との接点を一過性のものに終わらせず、継続的な体験へと発展させることが、LTVの最大化につながることを示していた。

