テレビCMでもない。SNS広告でもない。インフルエンサーマーケティングでもない。次に広告費が流れ込む場所として、「ゲーム」が急速に存在感を高めている。その流れを象徴する出来事が、2026年6月に米国のゲーム会社、Electronic Artsが発表した新たな広告事業「EA Advertising」である。一見すると「ゲーム内広告」の話に聞こえる。しかし、今回の事例の本質は、広告の配信先が一つ増えたことではない。ブランドがゲーム体験そのものに組み込まれ、プレーヤーとの接点を設計する新しいメディアが誕生したという点にある。本稿では同社の発表を起点に、広告の未来と、日本企業にとっての可能性を考察する。
米国ゲーム会社が広告事業を本格化
Electronic Arts(以下、EA)は、『EA SPORTS FC』『Madden NFL』『The Sims』『Battlefield』『Apex Legends』など、世界的な人気タイトルを抱える米国のゲーム会社である。
同社によれば、2026年度にはコンソール、PC、モバイルを合わせて毎月1億2,000万人以上のプレーヤーがEAのゲームやサービスを利用している。この巨大な接触機会を背景に、新たな事業として立ち上げられたのがEA Advertisingだ。
EAのChief Experiences OfficerであるDavid Tinson氏は次のように述べている。
「プレーヤーは毎日EAのゲームやライブ体験の中で遊び、観戦し、創造し、人とつながっている。ブランドは、その体験に価値を加える形で参加できる」
ここで重要なのは、EAが繰り返し掲げる「Enhance, not disrupt(ゲーム体験を邪魔するのではなく、より良くする)」という思想である。つまり広告を「見せる」のではなく、ゲームの世界観に「自然に溶け込ませる」のである。
表示される存在から「参加する」存在へ
ゲーム内広告そのものは珍しいものではない。スポーツゲームのスタジアム看板、自動車メーカーのロゴ、飲料メーカーとのタイアップなどは20年以上前から存在していた。
しかし、それらは基本的に静的な広告であり、一度ゲームを発売すると変更できなかった。EA Advertisingはここが決定的に異なる。広告はリアルタイムで差し替えられ、地域やキャンペーンごとに最適化されるのだ。
たとえばサッカーゲーム『EA SPORTS FC』では、Visaがスタジアムやユニフォームスポンサーとして登場する。Red Bullはブランドチャレンジや限定ユニフォームを展開する。
Mountain Dewは『College Football』内に「DEW University」という独自スタジアムやマスコット、報酬システムまで備えたブランド体験を構築した。さらに、XfinityやPeacockは中継番組のような演出と組み合わせた広告を展開している。
ブランドはゲームの中に「表示」される存在ではなく、「参加」する存在へ変わったのである。
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岡 徳之(オカ ノリユキ)
編集者・ライター。東京、シンガポール、オランダの3拠点で編集プロダクション「Livit」を運営。各国のライター、カメラマンと連携し、海外のビジネス・テクノロジー・マーケティング情報を日本の読者に届ける。企業のオウンドメディアの企画・運営にも携わる。
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