国内主要アプリの8割以上にSDKを提供
イベントの冒頭、Adjust Japanのゼネラルマネージャーを務める佐々直紀氏が登壇し、同社の歩みと今回のイベントテーマに込めた意図を語った。
Adjustは2012年にドイツ・ベルリンで創業し、日本法人は2014年に設立された。進出当初は小規模だった体制も、現在は25名へと拡大。現在では、国内主要アプリの8割以上に同社のSDKが導入されているという(出典:SensorTower)。
同社の成長軌跡を振り返ると、常に業界の課題解決とともにあった。2016年には当時大きな問題となっていたアドフラウドの防止機能をリリース。2019年にはアドウェイズの「PartyTrack」やCyberZの「FOX」といった国内主要計測ツールの事業を移管・統合し、顧客基盤を急拡大させた。その後も、CTV広告やPC・コンソールの計測対応、ダッシュボード「DataScape」の刷新など、時代の要請に応じたアップデートを継続している。
近年のアプリマーケティング環境について、佐々氏は大きな変化を指摘する。かつて主流だった「CPI(Cost Per Install)」を重視する運用から、ユーザー獲得後のLTVやROIを最大化する運用へのシフトだ。そのような変化を受け、Webプロモーションとアプリを円滑につなぐディープリンク(Webサイトなどからアプリ内の特定ページへ直接遷移させる技術)ソリューション「TrueLink」の機能強化など、同社では多角的なアプローチを進めている。
佐々氏は現場のリアルな空気感として「広告予算の抑制やアプリのクローズなど、市場にどこか停滞感を感じている」と明かす。その上で「そうした状況下でも、海外市場へ果敢に挑戦する企業やUIの改善に愚直に取り組む企業は確実に存在する。参加者同士が新たな出会いやヒントを得て、次の一歩を踏み出してほしい」と力強く語り、本イベントのテーマである「前進」に込めた思いを表明した。
AIエージェントで目標駆動の自律型キャンペーン管理を実現
続いて、Adjustのグローバル・レベニュー担当上級副社長であるアレックス・リー氏が登壇。同社が描く次世代のプロダクト戦略と、AIを活用した「Agentic Growth Management(エージェンタブル成長管理)」構想を発表した。
リー氏はまず、アプリ市場の爆発的な拡大に触れた。App Storeが開設された当初、アプリ数はわずか500本だったが、現在では500万本以上のアプリが凌ぎを削る。出稿チャネルやクリエイティブ、対象国が複雑化する中、人間が手作業でデータを分析し、意思決定を行っていく運用はすでに限界に達していると指摘する。
そこで同社が打ち出すのが、従来の「何が起きたか」を正しく捉える「測定(Measurement)」の領域から「次に何をすべきか」を判断し、自律的にアクションを起こす「実行(Execution)」の領域への進化だ。この思想の中核となるのがAgentic Growth Managementである。
この仕組みでは、マーケターが「7日目のリテンション率を向上させたい」「ROASを20%改善したい」といったビジネス目標を設定すると、システム内のAIエージェントが過去データを自動分析し、達成に向けた仮説と具体的な推奨アクション(成果の低いチャネルの停止、効果の高いクリエイティブの増額など)を生成する。
初期フェーズでは人間が提案を承認する形をとるが、AIの学習が進むにつれて「オートパイロット(完全自動)」での実行が可能になる。マーケターの役割は、個々のキャンペーン設定作業から、目標を設定してAIエージェントを監督する役割へと変化していくという。
さらに会場では、外部のLLMとAdjustのデータを安全に接続する「Adjust MCP」や、管理画面内で対話形式の分析ができる「Growth Co-Pilot」のほか、アセットの最適な組み合わせを自動でキャンペーンに割り当てるクリエイティブ機能、さらにはユーザーの複数の行動条件を単一の高品質なシグナルに集約して媒体に送る「スマートコンバージョン」など、AIを基盤とした革新的な機能がリー氏から相次いで紹介された。
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アプリ内課金の収益規模で世界3位の日本
イベントの後半では、Adjustの山根氏とSensor Towerの植田氏によるトークセッションが行われた。このセッションは、両社が共同で実施した調査結果をまとめたレポート「モバイルアプリトレンド2026:日本版」の内容を基に、アプリ市場の構造変化や最新トレンドを紐解くものだ。
【右】Adjust Senior Enterprise Customers Success Manager 山根竜二氏
まず提示されたのは、グローバル市場と日本市場の構造的な違いである。アプリのダウンロード数や総利用時間において、日本は世界で15位前後に位置している。しかし、アプリ内課金の収益規模を見ると、日本は長年に亘り世界第3位のポジションを維持している。植田氏は「日本人はアプリ上でコンテンツに対してお金を払う意識が非常に高い国民性を持っている」と分析する。
また、市場全体のカテゴリ別収益シェアにも大きな地殻変動が起きている。これまで市場を牽引してきたのはゲームアプリであったが、2025年上半期を境にゲームと非ゲーム(エンタメ、ツール、生成AIなど)の収益規模が並び、直近では非ゲームアプリの収益成長率がゲームを上回る逆転現象が生じている。
ただし、このデータだけで「ゲーム市場が衰退している」と判断するのは早計だ。植田氏は「現在、多くのゲーム事業者がWeb決済をはじめとする『ストア外課金』への誘導を進めている。ストア内の売上データだけでなく、ストア外の決済動向を含めて市場を理解することが不可欠だ」と補足した。
グローバル市場で爆発的な伸びを見せているカテゴリとして「ユーティリティ(ツール系アプリ)」が挙げられた。ただし、同カテゴリでダウンロード数1位の迷惑電話・詐欺電話ブロックアプリ「Truecaller」は、ユーザーの多くを人口大国のインドが占めている。ストア外課金の動向然り、数億規模のダウンロード数の背景を正しく理解する必要性を植田氏は重ねて説いた。
NetflixとeFootballが示す大型イベントとの連動効果
セッションは、2026年上半期の国内アプリトレンドの深掘りへと進んだ。ヒットタイトルや上位アプリの動きから、日本のユーザーを引きつける成功パターンが読み解かれた。
まず、国内の消費支出ランキングで不動の1位を誇るのが「ピッコマ」をはじめとするマンガアプリだ。世界的に見ても、非ゲームジャンルでマンガアプリが収益の頂点に立つ現象は極めて稀である。日本人の「日常的にマンガやアニメを消費する」という文化的な土壌と、コンテンツに対価を払う意識の高さが、世界に類を見ない高収益ビジネスを支えている。
また、2026年上半期に特に顕著だったのが、大型イベントを活用した「瞬間風速のハック」だ。代表例が、WBCの独占配信権を獲得したNetflixである。従来は既存ユーザーのエンゲージメント維持フェーズにあると見られていた同アプリだが、世界的イベントの独占配信をフックに新規ダウンロード数が急増し、ランキング5位へ急浮上した。さらに、コナミのゲームアプリ「eFootball」も、サッカーワールドカップ開催期間中に収益首位を獲得するなど、イベントとの連動が劇的な成果を生んでいる。「グローバルイベントをグロースのフックにするアプローチは非常に有効」と植田氏はまとめた。
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ChatGPTのアンインストール率が前期比200%になったワケ
続いて、現在最も注目を集める生成AI関連アプリの最新動向に焦点が当てられた。国内のダウンロードランキングでもChatGPTが首位を獲得し、GeminiやClaudeといった対話型AIアシスタントが上位を占めている。
しかし、データ分析によって興味深い市場の変化が浮き彫りとなった。AIアシスタント市場全体のオーディエンスシェアにおいて、首位であるChatGPTのシェアが徐々に低下し、アンインストール率が一時的に前期比200%と急増する局面が見られたことだ。
この背景には、開発元であるOpenAIが米国国防総省との提携を発表したニュースが関係しているとされる。軍事関連へのデータ利用やプライバシーリスクを懸念したリテラシーの高いユーザーが、軍事提携を辞退した競合のアンソロピック社(Claude)などへ乗り換えた形だ。植田氏は「ユーザーのセキュリティやデータプライバシーに対する意識の高まりが、アプリの選定や離脱に直結する時代になっている」と指摘する。
ここで、世界トレンドと日本市場の違いとして「AIコンパニオンアプリ」の台頭が挙げられた。世界市場では業務効率化や検索を目的としたAIアシスタントが中心であるのに対し、日本では「zeta」や「未来マインド」など、AIキャラクターと対話を楽しむコンパニオンアプリがダウンロード上位に食い込んでいるのだ。
これは、日本独自の「推し活」や「オタ活」文化と対話型AI技術が高度に結びついた結果だろう。単なる利便性の追求にとどまらず、ユーザーの感情やエンタメ体験に寄り添うAIの活用法が、日本市場における強力な成長領域として確立されつつある。
Duolingoの好例からAI×アプリ成功の法則を学ぶ
セッションの締めくくりとして「AI専業ではない事業者は、AI技術をどのように組み込めばアプリ事業で成功を収められるか」という実践的なノウハウが語られた。
その好例として提示されたのが、語学学習アプリ大手の「Duolingo」である。同社は2023年にGPT-4を活用したプレミアムプラン「Duolingo Max」をいち早く投入した。しかし、初期に搭載した解説機能「Explain My Answer」のユーザー評価は芳しくなかった。
そこで同社は試行錯誤を重ね、2024年にAIキャラクターのLily(リリー)とリアルタイムでビデオ通話風の対話ができる新機能「リリーとの通話」をリリースした。単なる機械的な解説から、AIキャラとの自然な会話へと体験をアップデートしたことで、ユーザーレビューの評価は4.1へと大幅に向上し、サブスクリプション収益の再成長を達成した。
本セッションのまとめとして、今後のアプリ成長に向けた要点が改めて提示された。第一に、アプリ内課金の意識が高くマネタイズしやすい日本市場の利点を最大限に活かすこと。第二に、非ゲーム分野の成長やストア外課金など、多角化する収益構造を正確に捉えること。第三に、大型スポーツイベントなどの季節性や社会的イベントを好機として捉えるプロモーションである。
そして最後のポイントが、急拡大する生成AI技術を単に搭載するだけでなく、ユーザーが継続して使いたくなる顧客体験へと落とし込めるかどうかという点だ。特に日本においては、アニメや推し活といった独自のコンテンツ文化とAIを組み合わることで、新しいユーザー体験を生み出せるポテンシャルを秘めている。

