クーポン利用者の2人に1人が「新しい商品」を購入
──このアプリはリテールメディアとしても価値の高いものになっていますよね。どのような点を意識しましたか。
田中:前提として、「イオンお買物アプリ」は広告事業のために作ったアプリではありません。お客様が広告を含むキャンペーン情報などに接しながら、楽しんで使ってもらうことを重視しています。お客様が嫌な気持ちにならずに、新しい商品に出合うことを目指しています。
広告主のメーカーに対しては、マーケティングファネルにおける認知、興味関心、比較検討、購入のフェーズに応じた広告メニューを用意し、個々の課題に対応できるようにしています。
中尾:アプリを開いたときに、お客様が求めている情報を含む広告であれば、それは有益なコンテンツです。UIとしても、広告もコンテンツの一つとして認識できるように工夫しています。一方、広告の配置に気を配り、買い物体験を邪魔しないように意識しています。全体のデザインも、新しいものを知るときのわくわくする気持ちを表現することを目指しました。
──アプリの改善によって、利用者の行動に変化はありましたか?
田中:従来はレジの前に来てから使う「クーポンやチラシが中心」のアプリでした。しかし、現在は64%の会員が来店前にアプリを開いてくれるようになりました(※リニューアル後に実施したアンケート調査による)。「今日は何を買おうか」と考えたり、買い忘れがないように「いるかも商品」を確認したりしてくれています。イオン以外の場所でも「買い物について考える機会」の創出につながっています。
また、アプリを通じて月に約300企画のクーポンを提供していますが、レコメンド枠に掲載されたクーポンを利用した方の2人に1人は今まで買ったことのない商品を購入しています。お客様の“新しい発見”をお手伝いできていると感じています。
本質を理解し、実践経験と専門性を活かす
──今回の取り組みを踏まえて、デジタルサービスを成功させるために重要なポイントについて教えてください。
田中:テクノロジーの活用だけでなく、「お客様に何を体験してもらいたいか」を全員が理解することが重要です。今回のチームは、「こんなことをやりたい」という思いに対して、みんなが「そうだよね」と理解し、議論してくれます。
もちろん、最初からそうだったわけではありません。プロダクトを育てていくうちに、「お客様が困っているポイントはここだね」「この数字が落ちているから改善が必要だ」というように、重要な点を押さえながら冷静に考えられるチームになったと思います。
澤﨑:AIの進化によって知識や方法論へのアクセスが容易になればなるほど、それだけでは差別化が難しくなります。だからこそ重要なのは、実際の現場で培った実践知をもとに、個々のビジネス課題に応じた解き方を知っていることと、それを支える深い専門性です。日本IBMでは、様々なプロジェクトで得た経験を実践知として蓄積し、組織全体へ継承・横展開する仕組みを持っています。
加えて、今回の「イオンお買物アプリ」のような大規模かつ複雑なサービスでは、表からは見えにくい部分を支える専門人材も欠かせません。1,570万会員を抱えるアプリのデータを安定して処理し続けるには、高度な専門性が求められます。そうした領域を支えられる人材がそろっていることも、私たちの強みです。
そして、AI時代だからこそ、最後に大きな差を生むのは人と人との関係性だと思っています。特に田中さんのこのアプリに対する強い「愛」や「より良くしたい」という想いがチームに伝わり、一人ひとりの専門性や情熱を引き出してきました。互いを信頼し、専門性と想いを掛け合わせることで、単に便利なだけではない、利用者に愛され、携わる人たちにも喜びや誇りをもたらすサービスを生み出せる。そこに、AI時代のプロダクトづくりの本質があると考えています。
──どうしてもAIなどの技術やリテールメディアといった手法だけに目が行きがちですが、何を提供したいかというビジョンと熱量を持ち、知見・ノウハウを現場に合わせて柔軟に活かすことこそ重要だと感じます。本日は、ありがとうございました。

