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MarkeZine Day 2026 Autumn(AD)

カスタマージャーニーは「描く」のではなく「あぶり出す」?行動の“順序”から顧客実態を理解する手法とは

落合 真彩[著] / 川口 紘[写] / MarkeZine編集部[編]

 AI時代、顧客の情報接触は多様化し、たどる経路は一人ひとり細かく異なる。それでもカスタマージャーニーは、今も「描く」ものとして扱われがちだ。MarkeZine Day 2026 Autumnに登壇した電通クロスブレインの中村洋介氏は、行動の順序を機械学習にかけて顧客の実態をあぶり出す「データドリブン・カスタマージャーニー(DCJ)」というソリューションを紹介。具体的な分析事例を交えながら、主観に頼らず「顧客の実像」を捉える方法を語った。

既存の型でも、生の声でも、ログデータでも捉えきれないもの

 電通クロスブレインは、電通グループとブレインパッドが2020年に設立した合弁会社である。市場・顧客の理解から戦略の策定、施策の設計・最適化、効果検証・改善まで、マーケティングプロセスの全域に伴走する。

 中村氏はまず、同社が大切にする2つのスタンスを示した。1つは、前提が本当に正しいかをデータで確かめること。もう1つは、あぶり出した事実を渡して終わりにせず、議論の起点にすることである。AIが最適解を出せるのは、あくまで与えられた土俵の中にすぎない。その土俵自体を問い直すのは人の仕事だ、というのが中村氏の見立てである。

 その上で中村氏は、カスタマージャーニーの「従来の捉え方」を3つに整理した。1つ目は、AIDMAやAISAS、5Aといった型をもとに設計する方法だ。これらを用いればジャーニーを比較的容易に設計できる一方で、顧客行動の多様化とタッチポイントの複雑化が進む今、実際の顧客体験を反映しきれない場面が増えている。

 2つ目は、型に定性調査の知見を組み合わせる方法だ。定性的な声を聴くことで企業独自のジャーニーを描ける半面、その声は「主流」とは限らないことに加え、解釈に設計者の主観が入り込む点に注意が必要となる。

 3つ目は、実際の行動ログで可視化する方法だ。主観は排除できるが、ここにも抜け落ちるものがあると中村氏は指摘する。

 「ログは、あくまで何をしたかという事実です。その裏でお客様が何を思いどう感じていたのかは、単純集計には表れません」(中村氏)

株式会社電通クロスブレイン 執行役員 中村 洋介氏
株式会社電通クロスブレイン 執行役員 中村 洋介氏

 既存の3つの捉え方には、それぞれ死角がある。「その死角を埋める方法はないか」という問いが、同社の取り組みの出発点だった。

行動の“順序”を機械学習で読み解く「データドリブン・カスタマージャーニー」

 型に縛られず、主観に頼らず、心の動きまで捉える。この条件を満たす手法として同社が開発したのが、「データドリブン・カスタマージャーニー(以下、DCJ)」である。顧客一人ひとりの行動の「順序」を表す定量データをもとに、機械学習でカスタマージャーニーの構造を構築する手法だ。

 DCJのプロセスは3段階からなる。まずは顧客が接触した情報や行動を時系列に並べた定量データを入力する。次に、その並びの文脈を機械学習のアルゴリズムが読み取る。そして、カスタマージャーニーの構造をデータから組み立てる。

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 この構造は、顧客が実際にたどった行動から立ち上がるものだ。従来の行動ログ分析との違いを、中村氏はこう説明した。

 「行動を一つひとつ数えるのではなく、お客様がどんな順番でたどったのか、その流れごと捉える。これが、DCJの基本的な考え方です」(中村氏)

 なお入力データには、購買や閲覧のログに限らず、行動の順序を尋ねるアンケート調査の回答を用いることもできる。アンケートであれば行動の順番を尋ねる設問に加えて、そのときの気持ちも合わせて聞けるため、行動と意識を同じ流れの上に載せられる点も、DCJの特徴といえる。

前後の文脈から行動の目的・動機を推定する

 行動ログの単純集計で見えるのは、「どんな行動が多いか」「どんな行動が一緒に起きやすいか」という水準までとなる。DCJはその一歩先、「行動がどんな順序で並び、その前後にどんな文脈があるか」を読み取る。前後にどんな行動をとったかを手がかりに、一つひとつの行動の目的・動機を推定していくのだ。

 例として挙げられたのが、自社ブランド名での検索行動だ。SNSで動向を見て、カテゴリーのページを眺め、その流れでブランド名を検索する。これは軽い情報収集の検索である。一方、口コミを調べ、価格比較サイトで確認した後にブランド名を検索する場合は、意味がまるで違う。

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 「同じ『ブランド名検索』でも、SNSでふと目にして調べただけの検索と、口コミも価格も確認し抜いた末の検索では、意味がまったく違います。行動単体では、どちらなのかはわかりません。ですが、その前後の文脈まで見れば、どちらの検索なのか、その行動の目的・動機まで、推定できるのです。そして、それがわかれば、次にどこへ向かうのかも読める。だからこそ、次にどの行動へ移るかを確率で示せるのです」(中村氏)

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 行動の“順序”を捉え、前後の文脈から目的・動機を推定し、次にどの行動へ移るかの確率を算出する。目的・動機を踏まえて整理した行動同士を、確率で結んでできあがる構造が、DCJのアウトプットである。

データドリブン・カスタマージャーニーの6つの価値

 中村氏は、DCJの価値として次の6つを挙げた。

  1. 仮説を置かず、データから導ける
  2. 裏付けをもって、ジャーニーを語れる
  3. 一本道ではなく、存在するすべてのルートを捉えられる
  4. 代表的なルートを、いくつかに絞り込める
  5. 表面上似た動きも、異なるジャーニーとして判別できる
  6. 意識のアンケートも組み込み、ジャーニーごとの意識変化を捉えられる

 具体例として紹介されたのが、小売業の顧客行動の解明だ。仮説からジャーニーを描けば、店頭で実物を確認した顧客はそのまま購入する、という流れになりやすい。ところがDCJが示したのは違う顧客像だった。「店頭での実物確認」から購入に至るのは25%にとどまり、残りの75%は「店内Web検索」へ進むことが見えてきたのだ。

 「実物の商品を見た上で、その場でスマートフォンを開くお客様が数多くいるということです。仮説からジャーニーを描いていたら、実物を確認してそのまま購入という、事実と違う道を導き出していたかもしれません」(中村氏)

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 こうした発見ができれば、店舗とオンラインを一体で捉える顧客体験、いわゆるOMOの検討に進める。店内Web検索を前提とした掲示物の見直しなど、具体的な施策にもつなげられる。

 同じ分析では、情報収集の後に「Webで他ブランドと比較する人」と、「そのまま店頭に向かう人」がほぼ同数であることもわかった。「印象で『どちらが多い』と言い合うのではなく、確率の数字で語れる。これが裏付けの価値です」と中村氏は強調した。

 また、DCJでは存在するルートをすべて書き出せる。そのため、同じ状態を行き来する動きまで数字で表れ、顧客がどこで滞留しているかも見えてくるという。一方で、すべてを書き出せば経路は膨大になる。そこで、確率の高さをもとに代表的なルートへ絞り込むのだ。実際に高価格帯商材の分析では、大きく3つの代表ルートに整理でき、ルートごとの顧客特性の違いも明らかになったと中村氏は述べた。

EVの購入検討事例から見えた、9つの状態と3つのルート

 セッション後半では、EV(電気自動車)の購入検討を分析した事例が紹介された。なお本調査は、購入者を多めに抽出しているため、購入率などの数値は実際の市場より高めに出ている。注目すべきは数値の絶対的な大小ではなく、ルート間の差や傾向である。DCJが導き出したのは、9つの状態に分解されたジャーニーだ。

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 9つの状態は、「認知」「理解深化・停滞」「検討」というフェーズに沿って並ぶ。認知にあたるのが「家族・友人との会話から興味を持つ」「テレビCMを見て気になる」「テレビCMを見て車種認知」の3つ。理解深化・停滞には「Web動画や記事から理解を深める」「生活導線の中で情報に触れる」のように関心を広げて進んでいく状態と、触れてはいるものの車種名しか残らず認知にとどまる状態とが混在する。そして検討にあたるのが「試乗してEVを体感する」「金額試算やスタッフとの会話」の2つで、その先に購買が続く。

 この9つの状態の上に、大きく3つの代表ルートが浮かび上がったという。

 1つ目は「足踏みルート」と呼ばれ、全体の18.3%。認知止まりの2つの状態を約9割の確率で行き来し続ける。行動の回数は3つのルートの中で最も多いが、購入率は最も低い。

 「口コミやテレビCMで車種名を知るところまではいいのですが、その後は認知の状態をぐるぐる回っています。記事を見て、また広告に触れて、また記事を見る。動きは活発なのに、購入にはつながりません」(中村氏)

 2つ目は「じっくりルート」で50.2%と、全体の半数が通る最大ルートだ。テレビCMなどの広告に接触した後、92%が自分で調べる行動へと進む。さらに、街中やSNSといった生活導線での情報接触を経て、試乗や商談へと、段階を踏みながら着実に検討を深めていく。認知から購買まで、時間をかけて丁寧にたどるのが、このルートの特徴だ。

 3つ目は31.4%が該当した「現場直行ルート」。多くは、最初の行動が試乗または見積もりで、認知や情報収集の段階を経ていない。ディーラーに足を運び、試乗と見積もりを行き来しながら検討を進めていく。購入率は3つのルートの中で最も高かった。

分岐点は「頭に何が残ったか」。あぶり出された真の顧客実態

 興味深いのは、足踏みルートとじっくりルートの対比だ。両者はいずれもマス広告への接触から始まるが、購入への進みやすさは大きく異なっていた。では、その分かれ目はどこにあったのか。

 中村氏は、両ルートの人が最初の接触で何を得て、どんな視点で検討していたかを比べた。すると、足踏みルートでは「車種名を知った」にとどまる人が大半だった。一方、じっくりルートの人は、デザインや費用、充電のしやすさや航続距離といった、EVを実際に使う場面にまで関心が広がっていた。

 「分岐は、どの媒体に触れたかではありません。触れた後に、車種名以外の関心が立ったかどうかです」と中村氏。つまり、勝負は最初の接触時点で、車種名の先にある関心まで引き出せるかどうかにある。

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 では、現場直行ルートの人は、どんな状態にあるのか。認知も情報収集も飛ばしてディーラーへ向かうのだから、既に購入を決めていて、残すは実物の確認や試乗、価格交渉だけ──そう考えるのが自然だ。

 ところが、データはまったく違う姿を映し出した。中村氏が調べると、現場直行ルートでEVならではの不安を抱えている人の割合は49.2%。じっくりルート(47.3%)と、ほぼ変わらなかったのだ。つまりディーラーへ直行する人も、「もう決めている」わけではなく、不安を抱えたまま足を運んでいた。

 では、何がその後の購入を分けるのか。カギは「不安を解消できたかどうか」にあった。バッテリーの寿命や保証に不安があった人を見ると、それを解消できた人の購入率は50%、残ったままの人は25%と、倍の差がついた。この構図は、じっくりルートでも変わらない。

 「不安を持たれること自体は、悪いことではありません。むしろ真剣に考えてくださっている、関心の裏返しです。不安を持たせないのではなく、その不安を解消できる受け皿をつくることのほうが重要だと考えています」(中村氏)

 最後に中村氏は、「仮説ありきではなく、データから真の顧客の姿をあぶり出す」ことの重要性を提示しつつ、「あぶり出して終わりではなく、そこから議論が始まります。ぜひ、その議論も含めて皆様とご一緒できれば幸いです」とセッションを締めくくった。

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この記事の著者

落合 真彩(オチアイ マアヤ)

教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社電通クロスブレイン

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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