アテンションの「奪い合い」でCPAが高騰
動画視聴やSNS、テレビなど、生活者が隙間時間や余暇に接するコンテンツやプラットフォームは数多く存在する。テレビを見ながらECサイトでショッピングをしたり、動画を見ながらSNSに投稿をしたりと「ながら視聴」をする生活者も少なくない。
そうした中で、広告主は限られた可処分時間の中にある生活者のアテンションを奪い合ってきた。このように、人びとの「注意」が希少な資源となり、その獲得をめぐって競争が起きる状況は「アテンションエコノミー」と呼ばれている。
長年インターネット広告や検索領域に携わってきたバリューコマースの天野氏は、アテンション獲得競争の激化によってCPAが高騰していると指摘する。
「広告が表示されていても生活者の視界に入っていない『アドブラインドネス』が起きています。広告のインプレッションとしてはカウントされていても、実際には見られていない。つまり、到達効率が悪くなっているにも関わらず、CPAが上がっているのです」(天野氏)
「見られること」に最適化しすぎた広告とSEO
コンテンツを覆うオーバーレイ広告や、閉じるボタンが見つかりづらく誤クリックを誘発するダークパターンといった悪質な例は一部だとしても、現在のデジタル広告では、RTB(Real-Time Bidding、リアルタイム入札)によってインプレッションがリアルタイムに取引されるようになり、「誰に、何を伝えるか」以上に「そのインプレッションをいくらで買うか」という価格競争に陥りやすい側面がある。
また、ターゲティングも高度化し、ビッグデータからユーザーの反応する確率を予測することで、広告パフォーマンスを高められるようになった。一方、それはデータ上の相関や確率に基づく最適化であり、「なぜその人が選ぶのか」というユーザー理解は置き去りにされがちだ。
SEOにおいても、ブラックハットSEOのような検索エンジンのハックは極端な例としても、上位表示を獲得するためのコンテンツ設計そのものが目的化し、ユーザーへの提供価値よりも検索エンジンの評価基準を優先してしまうケースがある。
「広告はアテンションとクリックの刈り取り装置になり、SEOは上位表示をするためのテクニックへと最適化が進んできました。確かにそれでパフォーマンスが向上した面はありますが、どちらもユーザー志向ではなく、『見られる』ことに最適化しすぎているのではないかと考えています」(天野氏)
こうしたWeb広告やSEOのあり方に大きな変化をもたらしているのが、AI検索だ。
SEOの延長ではない。AI検索が起こす「認知革命」
AI検索は、もはや「検索」という言葉だけでは捉えきれない。
従来型の検索は、人間の情報探索を効率化するものだった。一方、AI検索は情報を探すだけでなく、要約、比較、意思決定の支援まで行う。つまり、「情報を探す」という検索の範囲を超えて、人間が担ってきた「認知活動の外部化」が起きていると言える。
実際にSimilarwebが公開した調査データでは、もともと購買インテントを持っていなかったユーザーのうち、チャットでの会話を進めるなかで46%が購買シグナルを示したという結果が報告されている。
「生成AIによって購買意向そのものが生まれるのであれば、Googleが提唱するZMOT(消費者が購入前にインターネットで情報を調べ、意思決定する瞬間)よりも前の段階で、AIが動機生成に関与していることになります。そう考えると、AI検索の登場は検索革命ではなく、認知革命と言えます」(天野氏)
マーケティングは「見られる競争」から「語られる競争」へ
AI検索によって検索のあり方が変われば、当然、求められるマーケティング活動も変化する。
従来の検索では、企業が自ら情報を発信し、検索結果の上位に表示されることでユーザーに届けることがブランド理解の中心だった。しかしAI検索では、企業が発信する情報だけでなく、第三者が発信する情報も含めた情報環境全体からAIがその企業のブランドを理解し、推薦するようになった。
一方で、最適化すべき対象は一貫してユーザーであり、ユーザー理解がすべての起点であることは変わらない。これはマーケティングの本質でもある。
「本質は変わりませんが、構造は転換しています。ブランドはもともと企業が一方的に届けるものではなく、第三者によっても意味づけられてきました。AI検索によって、その第三者の『語り』がブランド理解に与える影響がさらに大きくなっています。広告は『見られる競争』から『語られる競争』に変わってきました。企業は世の中から『どのように理解されているか』まで設計・マネジメントする必要があるのです」(天野氏)
見られる競争から語られる競争へシフトすると、競争ルールも変わってくる。見られる競争では、多くの人に共通する「最大公約数」が重要だった。企業はより多くの人に届くメッセージを発信し、広告でアテンションを獲得したり、検索結果の上位に表示されたりすることで、ユーザーに見つけてもらうことを競ってきた。
しかし語られる競争では、ユーザーは状況や文脈に応じた「個別解」を求めるようになる。その根拠となる情報は、企業自身が発信する情報だけではなく、第三者による多様な語りだ。そのため、「どれだけ見られるか」だけでなく、「誰に、どのような文脈で語られるか」を考えることが求められる。
見られる競争では、購入者や関心層と似た属性の人を購入確率が高いと捉え、ターゲティングする『オーディエンス拡張』が行われてきた。相関と確率によって効率的にリーチを広げられる一方で、「なぜその人が選ぶのか」という文脈まで理解しているとは限らない。一方で語られる競争で重要になるのは、そのブランドが意味を持つ「文脈」や「体験」、「推奨される理由」を増やし、多様な個別解につながる語りを生み出していくことだ。
「私はこれを『ナラティブ拡張』と呼んでいます。企業は、信頼と共感のネットワークを広げてブランド理解を形成し、語りたくなる体験を設計して、第三者による多様な語りを増やし、ブランドが理解される文脈そのものを広げていくのです」(天野氏)
この「ナラティブマーケティング」を実現する手段の1つとして、天野氏が改めてその価値を指摘するのが、アフィリエイト広告だ。
アフィリエイト広告で立ち返る「マーケティングの原点」
コンテンツの外側に広告が差し込まれるデジタル広告は、ユーザーのメディア体験を損なう可能性もある。一方、コンテンツの中で第三者が語るアフィリエイト広告の特性は、ナラティブマーケティングに活かせるのではないかと天野氏は話す。
「パートナーシップ管理プラットフォームを展開するimpact.comでは、『アフィリエイトという既存のネットワークが、GEO(Generative Engine Optimization)における大きなアセットになる』という趣旨が語られています。集客だけを狙った量産型のコンテンツによるアフィリエイトは、確かに時代遅れです。しかし、ナラティブマーケティングという観点では、アフィリエイト広告には新たな価値があると考えています。これから価値を持つのは広告枠でなく、語り手だからです」(天野氏)
広告枠から「語り手」へと価値の源泉が変われば、メディアの役割も変わってくる。従来、メディアには検索流入を集めて送客することが求められてきた。しかし、AI検索がユーザーの情報探索を代替するようになると、メディアへの訪問機会は減少する可能性がある。一方で、メディアが持つ価値は送客だけではない。第三者の「語り」として、ブランド理解を形成するための情報資産を社会に残すことがより重要になる。
「メディアにとって送客も大事ではありますが、そこにブランド理解を形成する価値を加えていくべきだと思っています」(天野氏)
ナラティブマーケティング実現に向けたGEO
ここまで述べてきた「語られる競争」への転換は、GEOの考え方にもつながる。天野氏は、GEOをSEOの延長線上で「AIに見つけてもらうための施策」と捉えるのではなく、ナラティブマーケティングの観点から、AIがブランドをどのように理解しているかを把握し、その情報環境を改善していく取り組みとして捉えるべきだと話す。
そのためには、マーケティングの思考そのものを転換する必要があるという。天野氏は、そのポイントを次の4つに整理した。
- キーワード起点ではなく、経営課題から逆算する
- 検索需要から戦略を決めるのではなく、戦略から検索需要を確認する
- AIを流入チャネルではなくブランド理解装置と捉える
- 分析対象を露出、意味の整合性にシフトする
また、その際に目指すゴールはAI検索に露出することではなく、AIのブランド理解を形成する「情報環境」を改善することであると強調した。
そのためには、企業が伝えたい価値、第三者が理解・発信している価値、AIが理解している価値の間に、どのようなギャップがあるのかを捉えることが重要になる。3つを一致させることが目的ではない。それぞれの違いを理解した上で、どのようなナラティブが不足しているのか、次にどのような「語り」を生み出すべきかを考えていくのだ。
「AIがブランド理解を形成する情報環境をブランド側が改善していくためには、どうナラティブを作り、世の中に行き渡らせていくかがとても大事になると思っています。ただ、マーケティングとは元々そういうものですから、AI検索による転換と言いつつ、実はマーケティングの『原点回帰』だと言えるのです」(天野氏)
ナラティブマーケティングをどう実装するか
バリューコマースでは、ナラティブマーケティングの実践を、「何を語るか」「誰に語ってもらうか」「どう評価するか」という一連のプロセスで捉えている。
「『誰に語ってもらうか』では、アフィリエイト広告、ソーシャル・コマース・マーケティングを統合したプラットフォーム『NAINS(ナイン)』の先行案内を開始しました。これは、ナラティブを蓄積・拡張していくための基盤です。そして『どう評価するか』については、信頼される語られ方をしているか否かを評価する『Narrative Score』という独自の評価指標を作成しました。これは現在特許出願中です」(天野氏)
Narrative Scoreは、「誰の、どのような課題を解決しているか」など、5つの軸でコンテンツを評価する。たとえば、そのプロダクトを実際に使った時に、具体的にどんな効果・差異が生まれるのかが書かれたコンテンツはスコアが高くなる。このNarrative Scoreが高いサイトは、低いサイトと比べてCVRが1.18倍高いという結果も出ている。また、Narrative Scoreが高いサイトほどAIでの参照率が高い傾向も見られており、事業成果とAIからの評価の両面で検証が進められている。
「改めて強調したいのは、GEOはあくまでナラティブマーケティングの一環でしかないということです。AI検索時代に競うべきなのは検索順位ではなく、『ブランド理解』です。だからこそ、AIにどう評価されるかというテクニックから始めるのではなく、まずユーザーを理解し、自分たちのブランドが誰に、どのような文脈で価値を持つのかを考える。そして、それが世の中でどのように語られているのかを見る。AI検索への対応に見えて、実はマーケティングの原点に立ち返ることが求められているのだと思います」(天野氏)

AI検索時代のマーケティングをさらに詳しく知りたい方へ
AI検索の普及によって、消費者の情報探索やブランドの選ばれ方はどう変わるのか。バリューコマースの独自調査をもとに、AI時代に求められるプロモーション戦略をまとめたレポートを公開しています。

