マイクロソフト的なやり方ではゲーム文化は育たない
任天堂の歴史は、ゲームの歴史でもある。その歴史は、自分たち(任天堂)がゲームそのものの一部分だ、という自覚を与えている。そのような背景の中で、消費者が何かしらの不満、退屈を感じてしまっているならば、それはつまり、任天堂自身を変えなければならない、ということに言い換えられる。
「多分、ゲームはつまらなくなってきているんだと思う。僕自身、最近は、あまりゲームをしなくなってきた。任天堂も同じことを考えたんじゃないかな? 最近のゲームの、すごいグラフィックを見れば、頭ではすごいと思うよ。でも、それは、Fゼロで加速させたり、スーパーマリオでBダッシュしたりしたときの気持ちとは次元が違うんだ」
「あの、“わああああ!” っていう興奮はなくなってきている。で、多分、任天堂は、グラフィックが良くなっても、あの、“わああああ!”っていう気持ちは、ないと思っている。あの興奮をもう一度どうにか作り出したくて、Wiiを作ったんじゃないかな」
「だからこそ、ライバルは他社ではない、という言葉がでてきたんだと思う。彼らも、あの興奮をもう一度感じたかったんだ、そして、その興奮を共有したいと思ったんだと思うよ」
そして、このままでは、ゲーム業界は先細りになるのではないか、と猪子氏は心配する。
「マイクロソフトが、XBOXに力を入れていくと言い出したころ、僕は学生代表みたいな感じで、スティーブ・バルマーと話したことがあるんだ。彼が東京大学で講演をしたあとにね。僕はそのとき、『価格戦略やマーケティングとか、競合に勝つみたいなことは、アメリカ企業や、特にマイクロソフトは得意かもしれない。でも、任天堂とゲーム文化は、そんな合理的な判断で育ってきたわけじゃない。ゲーム文化は、マイクロソフト的なやり方では育たない。そういうやり方では、長期的には、産業としても廃れていくと思う』と言ったんだ」
「もちろん、バルマーはすごく頭がいいから、合理的の反対の意味で、感情的な判断、のことを言っているのかと返してきた。で、僕はといえば、ちょっとそういう二元論的にはモノを考えられないから、『そうかもしれないけどわからない』と答えた(笑)」