今年になって「ビッグデータ」が話題を集めている理由とは?
今年になって突如としてIT業界で話題を集めている「ビッグデータ」。文字通り、企業環境に存在する”ビッグ”(大量)なデータを活用することで、”ビッグ”なビジネス機会を生み出すことが可能となるという。
では、なぜ今ビッグデータなのか。背景には、2000年代以降になって、社会全体でIT活用による「電子化・自動化」が大きく進展したことで、処理・分析に利用できる大量のデータ(ビッグデータ)の取得や蓄積が進んだことが挙げられる。特に、昨今話題のクラウド利用の進展が、その環境に拍車をかけた格好だ。
また、こうしたIT活用の進展に伴い、データ量が急激に増加し始めた。米調査会社IDCは、企業内のデータは非構造化データを中心に今後10年で50倍に増加し、全世界のデータ総容量は2020年には35.2ゼッタバイト以上に達すると予測している。
身近な例を挙げれば、ブログやSNS、Twitterなどから得られるライフログやソーシャルグラフデータ、携帯やスマートフォンに組み込まれたGPSなど位置データ、時々刻々と生成されるセンサーデータ、リアルタイムな動画・音声など非構造化ストリーミングデータ・・・など、我々の日々の生活や消費行動から生み出される大量のデータ、つまり「ビッグデータ」がさまざまな端末を介して絶え間なくクラウド上に吸い上げられているのは、実感として思い当たるのではないだろうか。さらに、交通データ、気象データ、産業データなどが加わると爆発的なデータ量となる。
こうして集められたビッグデータを分析・活用することで、新規事業や新規サービス・商品の改善や開発、販売促進、さらにはスマートグリッドやスマートシティに代表される社会インフラの効率化などに役立てようという動きが米国などを中心に進んでいる。
例えば、世界最大のオンラインオークションサイトeBayでは、DWHやHadoop(大規模データの分散処理技術)などの新規テクノロジーを組み合わせ、十数ペタバイト級のビッグデータを解析し、常にサービスの改善を行っているという。こうした一部のネット系企業でなければ困難だったビッグデータの活用が、一般の企業にも可能になってきたことで、大きな期待を集めているのだ。
また、今年に入ってIBM、オラクル、EMC、HP、マイクロソフトなどの主要なITベンダーが続々とビッグデータ事業に本格参入。ビッグデータ活用を支えるテクノロジーがコモディディ化しつつあり、テクノロジーや商材が成熟してきたこともビッグデータブームに拍車をかけている。
本邦初のビッグデータビジネスの解説書『ビッグデータビジネスの時代』が発売
11月8日に刊行した『ビッグデータビジネスの時代』は、こうしたビッグデータとビッグデータビジネスについて広範に解説した本邦初の書籍となる。著者は野村総研のICT・メディア産業コンサルティング部の主任コンサルタント鈴木良介氏。 本書は、以下のような構成となっている。
『ビッグデータビジネスの時代』主要目次
- 第1章 ビッグデータビジネスとは何か?
- 第2章 ビッグデータビジネスの効用と活用事例
- 第3章 主要陣営の戦略とビッグデータビジネス活用を支える技術
- 第4章 ビッグデータ活用に向けた3つの阻害要因
- 第5章 ビッグデータビジネスの将来予測
鈴木氏は、本書の中でこうしたビッグデータを活用している先駆的な事業者の筆頭として、ウェブサービス事業者を挙げている。
「グローバルに展開する大手のウェブサービス事業者は、世界中でユーザーに関するデータの取得を進めている。『何に関心があるのか?』を知るグーグル、『何を買うのか?』を知るアマゾン、『誰と仲良しなのか?』を知るフェイスブックなどが象徴的である。これらの事業者は、歴史上どのような国家も知り得なかったほど膨大なユーザデータを取得・蓄積し、そのデータをもとに高い競争力を示すイノベーティブなサービスを提供している」(『ビッグデータビジネスの時代』第1章より)。
また、グーグルやアマゾン、フェイスブック等に代表される先駆的な企業を中心にビックデータの取得と活用をすでに着々と実行していることの意味を次のように説明している。
「強く留意すべきことは、目端が利く事業者はすでに、そのようなデータの取得と活用を進めていることだ。IT活用が『電子化・自動化』の段階で留まる事業者と、『事業に資する知見導出』の段階に踏み出した事業者との間には、大きな競争力格差が生じる。多くの事業者が、時流に沿った形で、ビッグデータを活用したイノベーティブな事業運営、すなわちビッグデータビジネスを進めていくことが求められる」(『ビッグデータビジネスの時代』第1章より)。
同時に、ビッグデータの活用は大手を振って推進されるものではないことにも言及。第3章までで丁寧に解説した現状認識を踏まえ、ビッグデータビジネスを実現するためには「人材不足」、「プライバシ・機密情報への抵触」、「データの精度の悪さや、誤用・不適切利用」などの課題について指摘する。
特に、ビッグデータ活用のための環境整備が成熟するなかで、1番の問題点は人材不足であるという。「ビッグデータ活用の大きな阻害要因は人材不足であり、ビッグデータの取得・活用を主導できる人、すなわち統計学や情報科学の素養に富む人の数が不足している」(『ビッグデータビジネスの時代』第4章より)。
米国のシリコンバレーでは、Hadoopが使えて、統計リテラシがある人材に関しては、スタートアップ事業者から大手事業者までが広く募集するなど人材の奪い合いがすでに始まっているそうだ(統計リテラシとして、特にウェブ関連分析やA/Bテストや統計分析技法などを挙げている)。
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ビッグデータという言葉自体は一過性のバズワードに終わるかもしれないが、こうしたデータを巡る大きな潮流は2010年代以降、不可避なものとなるのは間違いない。
本書は、クラウド以降のITの潮流やビッグデータ活用の現状と課題、今後の業界の動向といった全体像を俯瞰するのに大いに参考になる。本書で数多く紹介されているビッグデータビジネスの直近事例からは、新たなビジネスの可能性や萌芽を感じ取れるはずだ。