Webプロモーションは新しいことを先にやったもの勝ち
梶氏はその経験から、Webプロモーションで「誰かと同じこと」をやると、パフォーマンスが下がると断言する。
「二番煎じで6割、三番煎じで1割に満たなかったりする。ネットは流行り廃りが激しく、2カ月後にはアレ?というモノも多いですよね。絶えず新しい要素を取り込んでいくのは大変ですが、その分だけ“先にやっちゃったもん勝ち”なんです」
ただし、すべてを新しくする必要はないという。それほど大きな予算をかけずとも、組み合わせで面白さを演出できればファンは楽しんでくれる。AIのニコニコ生放送初出演は、そういう発想から生まれた企画だ。
ネット施策3「R&Bの女王 AIのハピネス生放送」ニコニコ生放送

シングルの発売に合わせて、レコード会社の“慣例”として、渋谷周辺のCDショップにあいさつ回りを行った。その際、どこからでも中継できるリュックサック型の通信機材(TVUPack)とカメラで、CDショップ周りするAIに密着しゲリラ的に生中継したのだ。結果は大成功。
移動車の座席の前にiPadを貼りつけ、寄せられるリクエストに応えてAIが即興で歌いまくったという。アーティストが楽しんでいる様子がニコ生の住民にも伝わり、人が集まってきたのだ。
「このプロモーションはやっぱり、“新しかった”んですね。ニコ生という新しいプラットフォームに新しい機材を用い、アーティストのショップ回りを追っちゃうのが、組み合わせとして新しかった。予算はあまりかかってないですよ」(梶氏)
戦略あっての戦術 難しく考えすぎずに作品のビジョンを活かす
先にも述べたとおり、アーティストプロモーションで重要なことは、まずアーティストの作品を理解することだ。歌詞の世界観、タイトルの意味、歌っているアーティストの意志、そういったビジョンを理解したうえで、すべての施策のベクトルをそのビジョンに向けて一致させることが大事だという。
「確かにマーケティングは難しくなっています。しかし難しく考えすぎて、ビジョンを見失ってしまっていることも多いんですよね。もともと、ビジョンの先に戦略があって、その次に戦術がある。それなのに戦術のことばかりを考え過ぎて、ソーシャルメディアの使い方は詳しく知っていても、活かし方がわからない。そこで壁にぶち当たっているマーケターは少なくありません」
ネット施策4「今日のハピネス」

ミリオンダウンロードを達成したシングル曲「ハピネス」のビジョンは、歌詞にもある「君が笑えば すべてが良くなる」。このビジョンをファンに共感してもらう施策として梶氏が実施したのが、「ハピネスプロジェクト」だ。その日感じたハピネスをファンにひとことつぶやいてもらい、ソーシャルメディアで共有するというもの。
「Twitterを利用したとてもシンプルなプロモーションなんだけど、たくさんのファンが楽しんで参加してくれました。ビジョンがあればユーザーも見えるし、ツールも、メディアも、プラットフォームも、すごくシンプルにプランニングできるはずです」
「ハピネス」のキャンペーンでは、東日本大震災の被災地である福島県南相馬市の合唱団「MJCアンサンブル」のリクエストに応じて、「Coca-Cola Happiness Truck」の協力のもと、南相馬市内でクリスマスパーティを開催した。
「震災が起きて、みんなさまざまな思いを抱えているけれど、自分にできることは笑顔を作ることだ。AIがそれに気づき、行動しようとする。それを実現するために、我々バックアップ側は何ができるかを考えて、ハピネスプロジェクトや南相馬の企画を組み込んでいったんです」(続く)