企業を動かすのは「CMO」という肩書きではない
ここまで読んで「アドビの考えには賛同するが、社内の理解を得てヒト・モノ・カネを確保するのは容易ではない」と感じた方もいるかもしれない。まずは導入予算を確保するだけでも大変なことである。さらに社内の各部門に必要性を理解してもらい、実際に使ってもらうことは一筋縄ではいかないだろう。
リーダーシップを取るCMOがいれば、解決する問題なのかもしれない。けれど、中東氏、井上氏の両氏は「まずは社内に対して自部門のマーケティングを実践してみるのはどうか」と提案する。
「マーケターを取り巻く社内環境を改めて見つめ直す必要があります。ステークホルダーである営業部門は何を必要としているのか、予算配分を決定する経営企画部門は何を重視しているのか。さらには経営層は投資に対してどんな成果を期待しているのか。
ステークホルダーのニーズを把握しそれに応えるのはマーケターが最も得意とする分野であり、それを社内に適用するだけで社内の理解は進みます。CMOという万能のリーダーが社内を導いてくれるのを待つのは得策とは言えません」と中東氏は語る。
その一方で井上氏は「企業を変えるのは『CMO』という肩書きではなく、人です。1個人、1部署がデータを根拠にアクションを起こし、周囲の部署を巻き込んでいけば、物事は変わっていくことでしょう。
アドビにおいても、テストやデータ重視の文化を作り、結果として売上を向上させたのは何もCMO一人だけの功績ではありません。数年前までは、各製品ブランドのオーナーやIT部門、Webサイト担当部門、さらには国・地域によっても、見ていること、実施していることがバラバラでした。
部門や地域の垣根を越えてデジタルマーケティングを推進していこうと、米国本社ではデータやテストの専門部隊が旗を振り、国内では私がデジタルマーケティング促進の独立したポジションとして、国や部門間の橋渡しとなるべく、チェンジマネジメントを行いました。ある時は米国本社とも交渉を重ね、社内のデータに対する理解や文化を育ててきました。その結果として好調な売上が続いていると考えています。
Marketing Cloudなど、テクノロジーの進歩によって、できることがますます増えていきます。でも、使う側の人が変わらないと何も変わりません。そして、アクションを起こさないことには、何も変わりません。CMOであろうとなかろうと、変えるのは”人”なのです」と提言する。
「マーケターの仮説力」と「クリエイティブの力」がキーポイント
井上氏は「テクノロジーの進歩によって、できることはますます増えてきました。ただ、テクノロジーに詳しいだけではダメです。重要なのは、自社の製品とビジネスをよく知り、顧客の深い理解のもと、様々な仮説を立てられるマーケターがリードをとれるということです。
マーケターは統計の基本だけ知っていれば、A/Bテストでどちらに優位な差が出たか、Adobe Marketing Cloudならシステムが自動的に判断してくれます。また、各種テクノロジーやデータ分析についても外部パートナーを含めて多くの助けがあります。
マーケターに求められるのは、自社の課題を把握し、分析やテストの前提となる仮説を考えることと、その結果を関係部門や経営層に分かりやすく伝えること。仮説さえあれば、テストをどんどん推し進めることができます」(井上氏)
一方の中東氏は「クリエイティブの力にあらためて焦点が当たるのではないか」と語る。
「どれだけテクノロジーが進歩しても、クリエイティブなきコミュニケーションはありません。ユーザーの心に訴えるクリエイティブの力は、これから先、さらに重要度を増していきます。
これまでと同じやり方で、さまざまなデバイスでパーソナライズを行い、PDCAを回そうとすれば、クリエイティブの制作プロセスに課題が見えるのは間違いありません。こうした制作との連携を見据えたソリューションでなければ、どのような仮説や解析も絵に描いた餅となるでしょう。
仮説の立案から顧客へのコミュニケーションの展開まで含めたEnd to Endのマーケティングプロセスを包括的にサポートするのがアドビの強みであり、事業領域を広げた理由でもあります。
そもそも『クリエイティブとマーケティングという領域において、デジタルエクスペリエンスを基に世の中をよりよく変えていく』というのがわれわれの使命ですから、その意味では、アドビがより世の中の役に立てる時代になってきたと思います」(中東氏)
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