ブランド横断的な施策を可能にする組織再編の必要性
深田:ギャップという面では、Webだと受け手が望まない、変なタイミングでのキャンペーンがあちこちにありますね。
横山:それはリターゲティングがずさんな点も原因の一つですね。DSPはリタゲのツールと認識されがちですが、正しくは広告主のタイミングで好きな入札価格で購入するシステムです。リアルタイムで消費者の行動に合わせた運用ができるため、効率を見て、投入量や内容を調整することが本来の使い方です。ですが多くの場合、本当の効果に寄与できる使い方がされていません。
これまで、キャンペーンは大きなお金を投下して終わってしまうことがほとんど。PDCAのPはプライスなのかという実情です。予算化して施策を打って効果を検証しますが、調査結果が次に生かされるわけでもない。常にKPIを捕捉する中で、次のキャンペーンでの目標・KPIが設定できて、はじめて予算が出てくるべきですよね。
これがなかなか実現できない要因には、日本の商習慣もあります。事業部が予算をもっていて、宣伝部に渡すという図式になっている。ブランド横断的な施策がとれないわけです。
人口が減っている今、本来ならば商品単位ではなく、人単位でマーケティングをしていく必要がある。けれど、自社のブランド内で遷移していく仕掛けがうまくできていない。解決するためには、組織体制の変革が求められるでしょう。
深田:組織体制の再編は、社長の意思が必要ですね。
横山:はい。宣伝、広報、情報システムなどをつなぐ大規模な再編はトップでないと推進できないでしょう。これは先ほど触れた、広報とカスタマーサービスの分断にもつながります。
深田:宣伝にしてもコミュニケーションにしても、ユーザーとのコンタクトポイントは同一であることが多い。ユーザーから見ればひとつのものです。けれど、企業は別の部署にしているから、バラバラのメッセージになってしまうのですよね。
業務フローをシステムに合わせて改善せよ
横山:日本企業はシステム導入に合わせて、業務フローを変えられないことも原因でしょう。欧米ではシステムを導入するときには、プロダクトの設計思想をしっかり理解します。ところが日本では、業務フローに合せてシステムをカスタマイズする。カスタマイズするからシステムの本来の良さを享受できないし、バージョンアップにも対応できなくなる。
例えば、海外のDMPのダッシュボードツールには、いろんなデータがAPIで連動して表示できるようになっています。ですが、日本企業は現状のデータは入っていないから使えないといわれます。確かに、運用を軌道に乗せるまでにすることは骨の折れることです。ですが、きちんとDMPを導入すれば、シームレスにブランド横断でデータを見られるようになり、組織や会社の機能が変わる。そこが伝わらないです。
グローバルとデジタルは表裏一体です。グローバルな動きに遅れてしまう現状は、そろそろなんとかしないといけません。
対談後記
横山さんとのお話はいつも大変に勉強になります。特にマスの視点は僕のように、デジタル畑の人間には学ぶところが大きいです。Webのおもてなしにもマスの視点を取り入れた施策が重要だと思いました。同時に、横山さんは海外のベンダーもよくウォッチされている中、ベンダーとしての哲学の重要性をよく強調されています。
僕自身も国産ベンダーの立場として、目の前のお客さんの満足や利益だけを追いかけるのではなく、Webのおもてなしを通した長期的な顧客との関係作りという実現したい世界観やそれを踏まえた設計思想、「こうあるべき」という姿を提示していくことを忘れずにいなければならないと自戒を新たにした対談でした。(深田)
