コンテンツの成果を測る指標は何を置くべき?
島袋氏:コンテンツマーケティングの展開に当たり、多くのマーケター・事業会社の頭を悩ますものが「何を成功指標にするか」です。PVやエンゲージメント率を指標にする企業も多いのですが、「エンゲージメント率」と言っても、はっきりしません。指標について、谷口さんはどのようにお考えですか?
谷口氏:記事形式の場合はPVを指標にしていますね。コンテンツは、ダイレクトにPVに直結します。また、「滞在時間」も重要な指標ですね。従来のweb広告の場合は、パッと見るだけ。0.3秒で視線が別に移っていたかと思います。一方、コンテンツの場合はユーザーも時間をかけて読み込んでくれます。
岩田氏:カヤックでも滞在時間を指標として出します。
島袋氏:確かに、コンテンツに時間を割いてくれているかどうかは大切な視点ですね。
商品が出てこない「コンテンツ」は広告として成立するのか
島袋氏:課題はまだあります。「コンテンツが、従来のタイアップ記事とどう違うのか」ということです。特に最近は、ネイティブアドという言葉も登場し、「コンテンツに同化した広告」「記事のような広告」ともいわれて、非常に線引きが難しい。これについては、どう考えれば良いのでしょうか。
谷口氏:これまでタイアップ企画を多数展開されたかたの中には、コンテンツに対して、まったく異なる認識を持つ人もいます。つまり、「コンテンツに馴染ませた広告」なのか、「記事風の広告」なのか、考え方の軸が違うのです。

この認識がずれたままコンテンツマーケティングに取り組むと、最後の最後になって、「このコンテンツは商品の説明が少なすぎるからダメだ」ということもあります。
単なる商品や企業の持ち上げになるか、それともコンテンツとしての成立度を求めるかを最初に決める必要があるのです。しかし、これまでの広告コミュニケーションがユーザーに受け入れられなかったわけですから、商品や企業のPRに偏りすぎると、今までと何ら変わらないでしょう。
島袋氏:その文脈では、2013年の映画『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』のDVDのPRで、谷口さんが制作された「虎柄の服を来た大阪のオバちゃんと227分間デートしてみた!」という記事コンテンツが印象に残っています。虎と227は掛けてあるけど、映画の内容はほとんど言及されていない。
谷口氏:今思うと、この企画ではコンテンツマーケティングのフォーマットの一つが作れたと思います。実際にこれ以降、似た構成の記事を多く見かけるようになりました。当時、著名人からのツイートもあり、PVが通常のニュース記事の約10倍に上り、売り上げにも貢献できました。広告業界からは激しいツッコミもありましたが、「なぜ広告なのにシェアされるのか?」が大きな話題を呼んだのです。今なら当たり前ですが、2013年では画期的でした。
島袋氏:当時このコンテンツをリアルタイムでご覧になったかたもいると思いますが、映画そのもののPR要素はほとんどありませんよね。クライアントがよく了承したな、と(笑)。
谷口氏:そもそもエンタメ業界のかただったので、理解が得られやすかったということもあります。また、配給会社の方との信頼関係があった点は大きいですね。今でこそ、一般の事業会社でも、こうしたPR要素の少ないコンテンツマーケティングに取り組んでいますが、コンテンツとしての面白さを理解していただけるかどうかは、ポイントになると思います。

商品や社名はほとんど出ず、純粋にコンテンツとしての面白さや有益性に寄ることもあるでしょう。コンテンツと広告、その線引きは難しく、どこに引くかはいろいろなケースがあります。
ただ、商品を安易に持ち上げると炎上につながることがあるので、小さなことですが、私の企画では記事中でクライアントの社名に「さん」を付けるのも禁じています。ユーザーは賢いので、安易な持ち上げはすぐ見抜かれます。
いま、コンテンツの量は爆発的に増えていますし、それに伴いネットの影響力も加速しています。この状況で多くの人にリーチするには、やはりコンテンツを作った方がいい。コンテンツの質と、リーチする量をかけ合わすことで、よりインパクトが増すのです。それが「コンテンツありきの広告」という考え方であり、今後その方向は高まるのではないでしょうか。