アドビとマイクロソフトがアライアンスを組む3つの理由
マイクロソフトとのアライアンスにおける大きな疑問は、「同じクラウドソリューションなのに、連携することでどのようなメリットがあるのか」ということだろう。これについて上原氏は、「柔軟なマーケティング分析環境の迅速な実現」「データサイエンティスト不足の支援」「高速・高度な分析と施策の融合」という3つの利点を挙げている。
「柔軟なマーケティング分析環境の迅速な実現」とは、具体的にどういうことか。上原氏は「オンプレミスで実現していた柔軟なデータ環境を、クラウドの強みを生かして迅速に実現することです」と説明する。
オンプレミスのメリットは、利用目的や要件に合わせて柔軟に構築できることである。たとえば、アドビ システムズ(以下、アドビ)の提供する「Adobe Marketing Cloud」(以下、Marketing Cloud)はマーケティングプラットフォームとして必要な機能を備えており、Webサイトのアクセスログやユーザーの動き、ソーシャルリスニングや広告効果の測定など、さまざまなデータを分析できる仕組みが搭載されている。これにCRMシステムのデータや基幹システムの売上実績などをインポートして、総合的なマーケティング分析を行うこともできる。とはいえ、オンプレミスの方に優位点があるのも事実だ。
「やはり、より多くの膨大なデータを使うのならば、オンプレミスで環境を整えた方が利便性は高いでしょう」(上原氏)
しかし、オンプレミスの最大の欠点は、要件定義からハードウェア選定、導入工数などでかなりの工数・コストがかかること。クラウドの利用が当たり前になっている今日、一からシステム構築をしていては、変化の速いデジタルマーケティングの潮流の中に取り残されてしまう。こうした問題を解決するのが「Microsoft Azure」(以下、Azure)だ。さまざまなデータソースとの接続口を備え、膨大なデータ量を格納できるAzureは、Marketing Cloudを補完した上、クラウドというメリットを生かして大量のビッグデータを収集・分析できる基盤を迅速に構築できる強みを持つ。
データ分析のサイクルを高速化
「データサイエンティスト不足の支援」に関しては、Azureが提供する「Azure Machine Learning」(以下、Azure ML)と呼ばれる機械学習ソリューションが解決に導く。通常、データ分析を行う場合は、データサイエンティストの手により、対象となるデータを洗い出して分析モデルを当てはめ、関連性や予測分析などを進めていくが、社内にデータサイエンティストを抱えている企業は数多くはない。一方マーケターは、統計解析の専門家ではないので、高度な分析になると時間がかかる。
Azure MLはこうした課題を解決するソリューションで、機械学習により、予測モデルの精度を自動的に向上させていく。さらに、直感的に利用できるAzureの分析コンポーネント「Microsoft Power BI」を利用すれば、データサイエンティストがいなくても、マーケター自身で高度な分析が行えるようになるという。
上原氏がAzureとの連携によるメリットとして最後に挙げた「高速・高度な分析と施策の融合」も重要なポイントだ。なぜならマーケティング部門のミッションは、何らかの施策を打ち、売上拡大などビジネス効果を得ることにあるからだ。その施策立案のためにデータ分析があるのであって、分析して終わりというわけではない。Azureで実現した高度な分析を、具体的に施策に落とし込むMarketing Cloudにもう一度返すことで、マーケティング施策のPDCAサイクルが劇的に向上するのだ。
「これまで、膨大なビッグデータをマーケティングに活用するには、システム構築の工数、データ分析の工数、そしてマーケティング施策に落とし込む工数と、それぞれの過程で時間がかかっていました。Azureとの連携により、こうした課題をすべて解決できるのです」(上原氏)