外食産業で成長著しい「回転寿司」、秘訣はリポジショニング
近年でこの図式をうまく活かし、市場を拡大させた象徴的なケースといえば「回転寿司」が当てはまるでしょう。「回転寿司」は長く存在していますが、近年になっても外食全体を上回る伸びで成長が進んでいる、好調なカテゴリーです。私もよく利用しますが、人気チェーンに行くと、予約を取らなければ1~2時間待ちのケースもあり、その衰えぬ人気ぶりを目の当たりにします。
そもそも「寿司」は、味覚面(機能ベネフィット)でのメインターゲットは「大人層」でした。しかし現在は、本来のターゲットにとどまらず、「子供を含む家族全員で楽しい場」となっており、さまざまなステークホルダーを巻き込んでいます。つまり、リポジショニングが功を奏したカテゴリーなのです。
回転寿司が世の中に登場して随分と経ちますが、振り返ると最初は「買ってくれる人本人=大人」の視点に留まっていたように思います。つまり「回転寿司=本格的な寿司屋の代替物・廉価版」というポジショニングで、メニューも当然ながら寿司が中心(or寿司だけ)であり、訴求ポイントも「この価格で、本物の寿司と変わらぬ旨さ」が中心でした。
しかしそれだけでは「大人が、本格的な寿司屋に行く時の”代替需要”」は獲得できても、休日に「家族で一緒に行く」という現在のポジショニングは獲得できず、需要に限界が来てしまいます。また誰しもが「本当は回らない寿司=本格的な店の寿司を食べたい」という欲求が根源にあるわけなので、いくら「変わらぬ旨さ」とはいっても、そこにはどうしても消極的選択の色彩を帯びていたことも課題であったはずです。
その状態から、回転寿司各社は戦略を転換し、メニューを拡大。具体的には、大人(お父さん・お母さん)向けの「定番お寿司(低価格)」に加え、子ども達向けの「洋食風ネタのお寿司」はもちろん「ラーメンなど子供の定番メニュー」や「デザート」を取り揃えることで「家族全員が行ったら楽しめる」状況を作り上げました。それにより「回転寿司」はファミレス対抗のポジショニングかつ「ファミレスにはない品揃え」という差別性を手に入れ、今や単なる代替需要でなく、積極的に「行きたい場所」に成長しました。
「ファミリー向け」を意識して企業の強みを発揮する“はま寿司”
回転寿司のなかで特に最近「はま寿司」の好調が目立ちます。この「はま寿司」、母体は「すき家」など外食を幅広く手がけている「ゼンショー」です。そして寿司以外のメニューとして「グリーンカレー」等の凝ったメニューを展開することで、単に「大人から子供まで食べるものがある」という状態から「子供から大人まで高い満足を得られる」という戦略を展開し、注目を集めています。
もし「本格的な寿司屋の代替需要」というままであれば、ゼンショーにその戦いに打ち勝つ資産はなかったはず。ただゼンショーはこの回転寿司のリポジショニングはもちろん、さらに「家族全員で行く場所」でファミレスにない独自のメニューという現在の評価を見極め、そこに「さらなるメニューのバリエーション展開による高い満足度提供」という勝ち筋を見出したのだと思います。その視点に立った時、自社の外食チェーンで培った経験は「競争優位に立つ資産」と捉えることができたため、回転寿司業態への参入を成功させ、現在に至っているのではないでしょうか。
ターゲットを選定する時に「自社の商品を買ってくれる人」をフォーカスし、深く掘り下げていくことはもちろん重要です。一方で購買には様々なステークホルダーが関与しています。ターゲットの周辺にどんなステークホルダーがいるのか、彼らはターゲットの購買意思決定にどんな影響を与えているのかを注意してみることで、自社商品のボトルネックが明らかになり、新たな価値提案の方向性が見つかるのではないかと思うのです。
次回は最終回「“競合と違う訴求方法こそが大事”というセオリーからの脱却」です。ぜひご覧ください。