作って満足せず、次のアクションに踏み出す
押久保:今回、私たちのカスタマージャーニーマップ制作過程をご覧になって、全体的にどのように映りましたか?
加藤:とてもよかったと感じたのが、かなり具体的で、現実的な施策まで話し合っていた点です。たとえば、「MarkeZineアワード(活躍するマーケターを表彰する)をやったらどうか」といった話がそうです。
押久保:編集者という立場からは、トレンドを追いがちです。業界感度の高い、アーリーアダプターに向いた内容を取り上げたくなる。一方で、有料講座の担当者は日々クライアントと接しており、モヤモヤしていてなかなか動けない、とマーケターの方がジレンマを感じている様子を見ている。もっとそうした方々にも愛されたい、必要とされたいと感じました。そこで浮かんだ案がアワードです。
加藤:次は「次の行動に移せるかどうか」ですね。実はマップ作りよりも、作ったマップを踏まえて次の行動に移せるかどうかのほうが、大きな壁になりやすい。実は多くの方々がマップ作りまでやって、そこで離脱しています。
押久保:私たちも、その点を頑張りたいですね。
カスタマージャーニーから得た気づきをテクノロジーで実現して、顧客対応スピードを上げていく
押久保:カスタマージャーニーマップを作る場合と作らない場合を比べると、その後にどのような差が出てくるでしょうか?
加藤:やらない場合、どうしてもチャネルごとの文脈でしかマーケティングやビジネスを考えられないと思います。顧客が置き去りになってしまう。企業側がどれほど、「お客様とは十分にコミュニケーションできている」と思っていても、顧客側は十分だと思っていない“すれ違い”が起きているからです。
押久保:ユーザー目線、顧客視点は、言葉ではよく叫ばれていますが、本当に実践できているのか。毎日私たちもデジタルに触れているのに、仕事となると、途端にこのあたりが見えなくなります。
加藤:そうですね。他にもたとえば、モノづくりの意識が強すぎる場合、「いいものを作っていればいいんだ!」というロジックから抜け出せない。
押久保:みんなそれぞれの物差しを持っているので、何もしなければズレて当然ですからね。
加藤:スピードが重要だからこそ、顧客にどう対峙していくか、チームや全社的な取り組みとして決めておけると、迷わなくなりますし負けなくなります。だからこそ、さまざまなニーズを感じて立ち上げたのが、作成キットであり、ワークショップなんです。意識があっても白紙状態だと、結局始められません。その助力になれれば、と思っています。
押久保:そして、マップ作成後の「次のアクション」こそ大切になる。
加藤:はい。ジャーニーマップは、1回のワークショップで完成せず、ブラッシュアップしていくものです。1回目で見えてきたことが複数あるなら、もっとも重要な顧客接点、カバーできていないリスク要因、課題をランクづけしていく必要があります。予算やリソース、時間で評価しながら、優先順位の高い項目から、ぜひアクションにつなげてほしいですね。
さらに重要なものが、ワークショップで得た気づき・課題をテクノロジーで実現して、顧客体験をより良いものにできないか考えることです。たとえば、会員プログラムに入会してくれたお客様に十分な初期フォローができていないと気づいたなら、ウエルカムプログラムを採用し、複数回に分けてメールやモバイルで、その人にあったコンテンツを自動的に案内するといった対策があるでしょう。
つまり、紙に描いたカスタマージャーニーマップで重要だと発見できたポイントは、顧客視点のシナリオになります。それをデジタルで強化できるのです。これは、今のマーケターが持つ、大きな可能性といえるでしょう。