鍵は顧客接点を“面”で広げるか、“線”で広げるかの選択
前述の3つのパターンを参考に顧客接点を強化し、ビジネスを推進するとしたら、どのような考え方をすればいいのだろうか? 阿部氏は前提として「顧客との付き合いを“点”で終わらせない、新しいエンゲージメントモデルが必要」と説く。国内・海外問わず、これには2つの方向性があるという。
1つは、接点を“面”で広げること。たとえば、同じ顧客に相対する他社とのエコシステムにおいて、ある顧客との間で1回100円の売上が生まれているところ、別の9社との間で生まれている900円分をまとめれば、売上は1000円になる。そこから各社へ分配するとしても、1社で活動するよりも利幅があるだろう。パートナーとなる9社には、その分ポイントによる顧客囲い込みや販売機会の増大などのメリットを還元するという方法だ。
もうひとつは、接点を“線”で広げること。言い換えれば、LTVを最大化する方向性だ。「相性がいいのは、月額課金で利用するサービス。ネット回線を含むインフラ系、それから動画配信などのメディア系などは今後も増えそうです」と阿部氏。
BtoBのIoT化したソリューションでも、利用量に応じた課金が可能なサービスなら、このモデルが適用できる。「たとえば、精密機器を掃除するための圧縮空気を扱う機械を工場などに売っていたメーカーは、合わせて納品していた圧縮空気自体の利用量データを継続的に把握するようにして、月額課金制を導入しました。同時に、サービスプランも新たに構築しています。つまり、空気が切れて一瞬でも掃除ができないと機器が壊れて大きな損失が出るのか、それほど重要でないのかによって選択してもらうのです」(阿部氏)
最も利益率の高い「圧縮空気」の売り方とは?
当然、機器が壊れると損失が大きい企業では、高額でもサービスが手厚いプラン、ベンダーにとっては利益率が高いプランに入るはずだ。これは、以前のように機械と空気ボンベを納品するビジネスモデルとは収益構造がまったく違うだけでなく、より事業継続性があり、自社に高いロイヤルティを感じてくれる顧客を大事にすることにもなる。画期的なビジネスの転換だといえるだろう。
「同じ製品やサービスでも、顧客によって感じる価値が違うケースはBtoCでもBtoBでもあり得ます。顧客が感じる価値によって値付けを変えるのも、収益を高める重要な方法です」と阿部氏は解説する。
では、前述の2つの方向性で顧客エンゲージメントを強化し、ビジネスモデルを転換するためには、どうすればいいのだろうか? 顧客データが重要だといっても、何から着手すればいいのか、迷う企業も多いのが現状だ。
「面で広げる、線で広げるといういずれの方向性とも、1.デジタルの顧客接点をしっかり持ってデータを収集し、2.それを活用する、という2つの段階をそれぞれ高いレベルで構築することが不可欠です。さらに、データを活用した先に顧客へ何らかの価値をフィードバックすれば、エンゲージメントがさらに深まり、好循環が生まれます」(阿部氏)
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