訪日中の観光客に、ITができる「おもてなし」
旅行後の口コミを分析した結果をDMPと組み合わせ、旅行前のユーザーにパーソナライズされた情報として提供する。それにより、訪日観光客を増やすことは確かに可能だろう。では、旅行中のエンゲージメントを高めるために、ITはどんなことができるのだろうか?

オラクルが実施している中で効果的なのは、多言語でのFAQだという。人工知能によって言語別に、顧客が最も必要としているであろう回答を導き出して対応するサービスだ。温泉旅館のケースでは、多言語でのFAQで応対精度を上げることで、自社サイトからの直販率を向上させる狙いだという。下垣氏は、その他にも災害やトラブル発生時の対応にも有用だと語る。
「熊本で地震が発生した際、同県の旅館では状況を確認するための顧客からの電話が殺到しました。保険会社や航空会社も同様で、何かが発生すると電話が殺到します。しかし問い合わせのほとんどは、同じ内容についてなんです。全日空さんのケースだと、導入により700万件かかってきていた電話対応を、300万件にまで減らすことができました」(下垣氏)
日本と海外のレベル差を無くすことで、訪日客の満足度を高める
徳島県那賀町の例のように、キャンペーンも支援している日本オラクル。帰国後の分析やさらなる観光情報の提供も含めこれだけ連携させて行うのは、そのすべてが訪日観光客のエンゲージメントを高めるために重要だからだ。その根底には、海外と日本とのITに関するレベル差があるという。

「欧米では、人による接客にITを取り入れることで、日本におけるおもてなしのような体験を実現できています。そのため、結果的にIT面で進化している。それが日本と海外のIT面での品質差になっているんです。日本に来る観光客でITによるおもてなしに慣れている方々は、その差に驚いてしまいます。そうすると、日本に対する魅力だけでなく、旅行会社や航空会社といったありとあらゆる事業にとっての課題になってしまいます」(下垣氏)
下垣氏は、日本人はIT面で器用貧乏になっており、1980年代から手作りで良いものを作り続けてきたものの、重くて動かしづらい、アップデートに何十億円もかかるような状態になってしまっていると言う。軽いものではSNS、重いものではERPという面から、海外の会社と戦っても勝てるような、身軽な事業構造にしていく必要があると語った。
最後に下垣氏は、2020年のオリンピック以降が日本にとって正念場であると述べ、その思いを力説した。
「年間訪日外国人数について、政府は当初2020年までに3,000万人にすることを目標にしていました。しかし現在は、4,000万人に上方修正しています。2011年の震災であれだけ世界から心配された国が魅力的だと思われ始めている中で、2020年にオリンピックというイベントを迎えます。日本にとって本当の勝負は、2020年以降に訪日外国人にどれだけ『いつか日本に住みたい』『日本で安全に働きたいと』思ってもらえるかではないでしょうか」(下垣氏)