盛り上がるアプリ、三つの条件
ここで編集部から菅野さんに、最近上場申請したSnapchatはどうなのかという話題を振った。
菅野さんいわく、「これからどう戦うのか注目している」とのこと。その理由として、Snapchatのターゲットとなる日本の人たちが、snowやB612を利用しているためだ。TwitterやFacebookのようにアメリカから数年遅れて盛り上がる可能性もあるため、今後の動向が楽しみだ。
では、アプリ(サービス)が盛り上がる条件とは何なのだろうか。菅野さんから、三つのポイントが挙げられた。「COMMUNICATION」「UTILITY」「UNIVERSAL INSIGHT」である。
盛り上がるアプリには、なによりコミュニティが必要だという。たとえば、成長しているサービスの傾向として、コミュニケーションを喚起する点がある。ユーザーが自分の居場所として思えること。自分だけで完結せず、誰かと共有すること。反応したり、反応されたりすること。
しかし、それだけでは足りない。ユーティリティ、つまり機能の提供も欠かせない。MixChannelなら動画撮影と編集、nanaならレコーディング。そうした機能が、コミュニティを成立させるために利用されるのだ。コミュニケーションとユーティリティがセットになっていると、ミレニアル世代に人気が出やすいと菅野さんは分析する。
ただ、これまで紹介してもらったアプリは、まったく新しいことを提供しているのではないことを意識してほしい。MixChannelのキス動画はちゅープリの延長であり、Studyplusも勉強方法自体に新しさをもたらしているわけではない。ニーズはかつてと同じまま、ツールだけが置き換わり、スマホで後押しされているのだ。これがユニバーサルインサイトである。
前略プロフやmixiの全盛期と変わらず、コミュニティベースのサービスが成長しているのは見逃せない点だろう。
広告主はどう対応すればいいのか
さて、こうしたアプリを広告主はどのように活用できるのか。広告主の知らないサービスが増えているが、そこに出稿しないと若年層向けの商品・サービスは認知されない。このジレンマをどうすればいいのか、と編集部が質問した。
菅野さんは、若年層にリーチしたいときにテレビは効率がよくない、と広告主も気づいていると言う。そして、LINEやTwitter、YouTubeは活用が進んでおり、その他のアプリも存在が認識され、議論の題材となっているそうだ。
ただし、メディアの活用とコンテンツの制作は分けて考えないといけない。広告の企画が先走り、あとからどのメディアを利用するか検討する場合は成功させるのは難しい。アプリ、そしてコミュニティには独自のモチベーションがあるため、それを前提に企業が伝えたいメッセージをうまくつなげる必要があるとのことだ。
では、どうすればアプリユーザーに受ける企画を広告主が作れるのか。菅野さんによれば、二つのやり方がある。
一つは、マスとソーシャルをまたいでプランニングできるクリエイターを見つけること。MixChannelのようなアプリを、ターゲット外の人が普段から利用するのはとても難しい。であれば、各アプリのコミュニティや文脈を理解・把握している人に任せるべきだろう。
もしくは、外部で見つからなければ、社内で日常的にそのアプリを利用している人の意見を聞くこと。誰でも、理解できないことを判断することはできない。使い慣れている社員がいいと言ったら、それで進めていけばいいという。そういう企業はトレンドのキャッチアップに敏感だそうだ。
もちろん、まったく利用したことがないよりも、少し触ったことのあるほうがいいのは間違いない。アプリ、コミュニティを理解するまで続けられないのであれば、詳しい人に任せようと菅野さんはきっぱり言いきった。
ソーシャル中心の芸能界2.0に注目
最後に、編集部から菅野さんが注目していることについて訊いてみたところ、「芸能界2.0」という言葉が飛び出した。
従来の人気者や人気コンテンツは制作も流通もテレビが中心だった。それらを抱える事務所があり、代理店がキャスティングを行うというトライアングルだ。この構造はテレビの存在とともに残り続けるだろうとのこと。
その一方で、今は特定のアプリやサービス発の人気者が登場している。大手事務所のタレントではなく、インフルエンサーと呼ばれる人たちだ。インフルエンサーを束ねる企業も生まれてきた。さらに、インフルエンサーはユーザーと直接つながっている。
コンテンツが流通する場所、人気者になる人、束ねる企業の変化。この新しいトライアングルが、ユーザーやファンとダイレクトにコミュニケーションする。これを、菅野さんは芸能界2.0と呼ぶ。芸能界2.0を駆動するパワーを持っているのがミレニアル世代だということだろう。
以上をもって、本イベントは締めくくられた。ミレニアル世代についてはもちろん、マーケティングの今を把握し未来を想像しなければならないと感じられた方は、ぜひ『MarkeZine マーケティング最前線2017』を、毎月定期的に情報を得たい方は定期誌『MarkeZine』をチェックしてもらえれば幸いである。